メールマガジン「Nutrition News」 Vol.187
第21回ダノン健康栄養フォーラムより
Food, Nutrition and Diet: Local Solutions for a Global Problem 
~食糧、栄養および食事―世界的課題に対する地域ごとの取り組み~

Chief Alimentation Science Officer, Danone
 Nicolas Gausseres

 現在、ほとんどの国が何らかの形で栄養不良の状態に置かれています。世界の3人に1人にあたる8億2千万人が栄養不良で苦しんでいる他、肥満や発育阻害なども深刻な問題となっています。最新の研究では、不健康な食習慣が死亡の一番のリスクファクターとなることが報告されており、非感染性疾患も不健康な食事によってリスクが高まることが分かっています。

 これらの現状は、ネガティブに捉えるべきものではありません。逆に言えば、食習慣のパターンを変えることによって多くの命が救われるということだからです。食習慣を変えるのは難しいことですが、様々な介入や教育プログラムをコミュニティベースで行っていけばそれは可能になるでしょう。しかし、食事介入の影響は限定されたものにとどまっているのが現状です。では、私たちは今後これらの課題にどう向き合っていけば良いのでしょうか? 私が考える3つの方向性をお話ししたいと思います。

課題に対する3つの方向性

 ① 「栄養素」視点から「食品」視点へのシフト

 多くの人々は、食品に含まれる栄養素に注目しています。しかし、ある栄養素を摂取しようと食べた食品には、その栄養素とは違った効果もあるかもしれませんし、それが必ずしも健康に良いとは限りません。栄養素ではなく、どういう食品を口にするべきかに着目し、どういうものを食べていけば健康になるかを考える必要があるでしょう。

② 地域環境を理解し、具体的対策を提案
 「栄養」だけではなく「楽しみ」も食事の重要な要素です。食習慣の改善に取り組む時には、まずその地域の食習慣、食文化を理解する必要があると思います。その地域では何が食べられているのか? 誰と一緒に食べているのか? 世代によって食べるものは違うのか? そこにある文化は何か? その食文化の中にある社会動向はどのようなものなのか? 伝統に流れるものは何か? 健康の捉え方はどうか? など、様々な視点で見る必要があります。アルゼンチンで行われた研究で、13歳の幼児の1週間の食事内容を調べた結果、ジュースやソーダなどの甘味飲料を常用している実態が浮かび上がりました。1人あたり1週間に2回、甘味飲料を水に置き換えられる可能性が示されており、それを習慣づければ砂糖の消費量を減らすことができます。また、南アフリカにおける研究では、41%の子どもが母子家庭で育てられていることが分かりました。父親の不在によって低収入となり、それが不健康な食事につながるという「三重の欠乏」が起こっています。しかし、これらのお母様方の多くは栄養の知識もあり、今の食生活が良くないことをきちんと把握しています。子どもの健康の重要性を認識しながらも、低収入がゆえに健康食を与えられず、子どもが喜ぶお菓子に手が出てしまうのです。「何を食べるべきかを分かっているが、毎日のことであるためにそれを実行できない」という矛盾は、南アフリカに限らずどこの国でも見られるものです。このような中で人の食行動を改善していくためには、食習慣のパターンを変えてあげることが重要です。
 このように、地域の食習慣や食文化を理解することで、より現実的な戦略をたてることができます。

③ 消費者と食品業界とのコラボレーション
 今、「フード革命」が起きています。消費者の健康意識の高まりとともに、健康食に対しても「シンプル」であり、「ローカル」であり、「オーガニック」であることが求められるようになりました。こういった消費者の動向を私たち食品事業者は前向きに捉え、変わっていく消費者のニーズに対応していく必要があると考えます。

食品事業者としてできること

 世の中にポジティブな影響力を与えるためには、まずはより良い商品を提供することが重要です。それがより良い選択を可能にし、より良い消費を実現するからです。私たちは25年前まではシャンパンやビール、ウィスキー、菓子なども販売していました。しかし、製品ラインナップの見直しを行い、商品の全てをヨーグルト、水、栄養食品に切り替える決断をしました。これは一朝一夕にできることではありません。しかし、私たちが実現できているのですから、他の事業者もできるはずだと考えています。

 より良い選択のためには「情報」も重要です。私たちは、栄養成分などの情報を、商品の前面に分かりやすく表示しています。また、企業の役割として消費者教育も重要だと考えており、ダノン健康栄養財団が栄養に限らず幅広い視点で子ども達への教育を行っています。
 さらに、取り組みの影響を評価することも重要です。私たちは、データやアンケートだけではなく、実生活における影響力の測定もしています。例えば、現在はルーマニアで母乳育児の割合が低いことに着目し、改善に取り組み、その影響力を測定しているところです。地域の事情を深く理解し、それらのデータに基づいて地域レベルで実践していくことが大切です。
 最後に、私たちは食生活の持続可能性について、“ONE PLANET. ONE HEALTH”という概念を提案しています。今後、人間が健康な食生活を維持していくためには、自分が食べるものの体への影響だけでなく、地球自体の健全性も考えていく必要があるでしょう。

講演ダイジェスト動画

▽第21回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓
  • ごはんだもん!げんきだもん!~早寝・早起き・朝ごはん~
  • ダノングループ・コーポレートサイト

ページトップへ戻る