メールマガジン「Nutrition News」 Vol.126
2013年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
TLR5を介した腸内細菌叢調節機構がもたらすメタボリックシンドロームの悪化を身体活動性の確保で抑制できるのか
川崎医療福祉大学 医療技術学部 健康体育学科  

矢野 博己 先生
  世の中には、普通の人と同じくらいの食事量なのにぽっちゃり体型で悩んでいる人も多くいます。Vijay-Kumarらは、太りやすい体質に、腸内細菌叢の異常による感染症が関与する可能性を指摘しました。また、免疫を活性化するToll 様受容体5(TLR5)遺伝子の欠損マウスはメタボリックシンドロームを発症します。すなわち、メタボリックシンドロームは、腸内細菌叢の変化に由来し、TLR5遺伝子の働きはその誘発要因であると考えられるようになりました。これまでに、腸内細菌叢の違いによってメタボリックシンドロームの発症が異なるとの研究が複数報告され、腸内細菌叢の改善に注目が集まっています。
  TLR5は、バクテリアの鞭毛を形成するたんぱく質フラジェリンを認識する自然免疫の中心的役割を果たすTLRsファミリーに属し、免疫担当細胞以外にも、腸管上皮細胞に強く発現しています。我々は、TLR5が感染時の身体活動性に深く関与することや、高強度運動によってその発現が増強することなども報告してきました。運動はTLR5の機能に影響を及ぼす以外にも、エネルギー消費量の増大、基礎代謝の亢進による内臓蓄積脂肪の減少とともに、高脂血・高血糖・高血圧など、種々のメタボリックシンドロームの発症予防・改善効果をもたらすことや、さらに大腸がんの予防に効果があることも知られています。
  メタボリックシンドロームの予防に運動を取り入れた生活習慣は、腸内細菌叢に影響を及ぼす可能性も考えらますが、未だ解明されてはいません。そこで本研究では、運動習慣によって腸内細菌叢が変化するのか、さらに腸内細菌叢の変化を介してメタボリックシンドローム予防効果に関与するのかについて検討することを目的としました。
 

要旨

  実験には、C57BL/6雄性野生型(wild type: WT)マウス(n=24)、および同週齢のTLR5遺伝子欠損型(Tlr5 ノックアウト: KO5)マウス(n=24)を使用し、それぞれ自発運動条件(wheel running: WR)と安静条件(control: Ctrl)を負荷した。自発運動期間は、20週間とし、食餌、飲水は自由摂取とした。KO5 Ctrlマウスは、メタボリックシンドロームを発症し、体重、体脂肪の増加とともに、糖代謝機能低下、肝脂質蓄積、および全身性の慢性炎症状態が観察された。しかし、KO5 WRマウスでは、それら全てに改善が見られ、さらに自発運動量はWT WRマウスよりも有意に高い値であった。心肥大や骨格筋肥大など、明らかな運動トレーニング効果も観察された。腸内細菌叢については、肥満と関連するFirmicutes / Bacteroidetes比がKO5 WRで顕著に低下し、糖尿病の悪化との関連も指摘されるLactobacillusがKO5 WRで減少していた。以上の結果から、通常食でメタボリックシンドロームを発症するTLR5遺伝子欠損マウスでは、高い運動習慣の獲得によって腸内細菌叢の変化を伴ったメタボリックシンドロームの改善が生じる可能性が示唆された。

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