メールマガジン「Nutrition News」 Vol.236
2021年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
母乳中のリン脂質由来メディエーターの動員機構の解明とその次世代への影響
東京大学大学院 医学系研究科 健康環境医工学部門

村上 誠 先生

要旨

 母乳中のリン脂質は、乳児期における脳や消化管の機能発達に有用な働きをすることが知られている。申請者はこれまでに脂質生物学に従事し、特にリン脂質代謝酵素ホスホリパーゼA2 (PLA2) 分子群による生理活性脂質の動員機構とその病態生理学的意義の解明をしてきた。本研究では、授乳期に乳腺に発現誘導されるPLA2を切り口に、母乳におけるリン脂質代謝産物の動員とその生理的意義を解明することを目指した。ヒト、ウシ、マウスの母乳の脂質成分をリピドミクスにより解析した結果、PLA2の反応産物であるリゾリン脂質と脂肪酸ならびにその代謝物(脂質メディエーター)が豊富に含まれていた。マウス乳房におけるPLA2分子群の網羅的発現解析を行ったところ、授乳期の乳腺上皮細胞においてIVF型細胞質PLA2 (cPLA2z) が著しく発現誘導されることを見出した。そこでcPLA2z欠損マウスを作出し、授乳期の乳房の脂質分析を行った結果、リゾリン脂質と脂肪酸に部分的な減少が見られたことから、乳腺のcPLA2zが母乳への脂質供給に一部寄与するものと考えられた。cPLA2z欠損マウスは体重減少、脾臓肥大の傾向を示したほか、皮膚のバリア異常と角質再生遅延の表現型を発症した。本研究の成果は、母乳脂質が次世代の健康に与える影響に関する新たな理解の一助になることが期待される。

 

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