メールマガジン「Nutrition News」Vol.259 2025年6月2日発行
健康・栄養に関する学術情報
「大腸がんと関連する食べ物はなに?」
大腸がんは世界の部位別がん罹患者数の第3位を占めています。発生率は日本を含む経済的に豊かな国で高く、豊かでない国では低い傾向にあります。これまでの疫学研究で、大腸がんの発生には食生活を含む環境要因が大きく関わることが示されています。しかし、食品関連因子については、アルコールと加工肉を除くとかならずしも一致した結果ではありませんでした。その理由として、これまでの研究では対象者数が少ない、食品を網羅していない、食事調査の精度が低いといったことに課題があると考えられました。そこで、先ごろ食べ物と大腸がんの関連を大規模に長期間追跡調査した研究が報告されました。イギリス人女性を対象に97の食品または栄養素について、それらが大腸がんの発症に関連があるかないか、ある場合は促進的か抑制的かを評価しています。この研究では、どんな食べ物・栄養素が浮かび上がったのでしょうか?
イギリスのオックスフォード大学をはじめとする国際チームによる本研究では、イギリス人女性542,778人を平均16.6年追跡して97の食品・栄養素の摂取状況や生活習慣などを調査した。追跡開始時の食事調査で項目ごとに5分位のグループを作り、そのグループごとの大腸がん発症例数から、食品または栄養素と大腸がん発症リスクの関連を評価した。また、生活習慣などの交絡因子による調整も行った。 期間中に大腸がんの診断が12,251症例あった。発症者の特徴として、高齢であること、身長が高いことや大腸がんの家族歴があることなどがあったが、食については17の食品・栄養素に大腸がんとの関連があった。

摂取量が多いとリスクが高い食品として、アルコールと赤肉・加工肉が認められた。特にアルコール摂取と大腸がんリスクは強く関連していた。
一方、カルシウム摂取量が多いとリスクが低く、その関連も強く認められた。また、牛乳、ヨーグルト、リボフラビン、マグネシウム、リン、カリウム、朝食用シリアル、果物、全粒穀物、炭水化物、食物繊維、糖類、葉酸、ビタミン C の摂取も大腸がんのリスクと関連があり、摂取が多いとリスクは低かった。
大腸がんリスクとの関連が認められた食品・栄養素が、他の食事因子や生活習慣に影響を受けていないかどうかを詳細に検討した。その結果、牛乳、ヨーグルト、リボフラビン、マグネシウム、リン、カリウム、朝食用シリアル、果物、全粒穀物、炭水化物、食物繊維、糖類、葉酸、ビタミン Cでは、有意な関連が消失した。赤肉・加工肉では、他の食事因子や生活習慣の影響は僅かだった。
世界がん研究基金(The World Cancer Research Fund, WCRF)は先行してアルコール摂取と大腸がんのリスクを発表しており、1日10グラムのアルコール摂取につき大腸がんのリスクが7%高くなる(1日20グラムのアルコール摂取につき14%に相当)としている。この研究では1日20グラムあたりで15%リスクが高くなり、ほぼ同じだった。
この研究から、アルコール飲料は大腸がんのリスクを高める方向へ、カルシウムは低くする方向へ関連していることが分かりました。アルコール飲料はいろいろな疾患で同様のことが発信されており、驚きではありません。お酒はほどほどにしておきたいですね。また、この研究の対象者はイギリスにおける一般的な食事を食べており、平均カルシウム摂取量は1日当たり980㎎でした。それに比べて日本の成人女性のカルシウム摂取量は1日当たり476㎎(令和5年国民栄養調査における女性20歳以上)と、とても少ないです。大腸がんのリスクを下げる可能性もあるので、カルシウム摂取を増やす必要がありそうです。
詳細は下記論文をご参照下さい。
Papier K, Bradbury KE, Balkwill A, Barnes I, Smith-Byrne K, Gunter MJ, Berndt SI, Le Marchand L, Wu AH, Peters U, Beral V, Key TJ, Reeves GK. Diet-wide analyses for risk of colorectal cancer: prospective study of 12,251 incident cases among 542,778 women in the UK. Nat Commun. 2025 Jan 8;16(1):375. doi: 10.1038/s41467-024-55219-5. PMID: 39779669; PMCID: PMC11711514.
本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。