2022/11/13

Vol.228 (2) 第24回ダノン健康栄養フォーラムより 「畜産物の栄養価とそれを支える生産システム」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.228
第24回ダノン健康栄養フォーラムより
畜産物の栄養価とそれを支える生産システム

京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 畜産資源学分野 教授
廣岡 博之

 

 畜産学は、農学分野において世界的にもメジャーな学問です。しかし、近年その風向きが少し変わってきました。畜産物の摂取とヒトの健康との関係、食料と飼料との競合の問題、畜産由来の温室効果ガスの問題など、畜産物について様々な問題点が指摘されるようになったのです。

畜産物の摂取とヒトの健康との関係

 畜産物摂取による健康への影響については、様々な研究成果からもいまだ統一見解が得られていないのが現状です。しかし、日本は戦後の高度経済成長の時代に死亡率が減少し、体格も良くなって平均寿命も延びました。この時期には肉や卵など畜産物の摂取量が増えていることから、これらの要因として食の西洋化が大いに貢献したと考えられます。つまり、適当な畜産物の摂取は健康にプラスに働くのではないかと考えられます。

 なお、食品中のたんぱく質を評価する新たな指標に「DIASS(消化性必須アミノ酸スコア)」があります。これは、従来のアミノ酸スコアに必須アミノ酸の消化吸収率を考慮したもので、FAOもこの指標を用いることを推奨しています。様々な農畜産物のDIAASを比較した研究では、小麦(40.2%)や大豆(99.6%)などの農産物に比べて、牛肉(109.3%)、豚肉(113.9%)、鶏肉(108.2%)、粉ミルク(115.9)、鶏卵(116.4%)など畜産物の方が高値であり、畜産物に含まれるたんぱく質が総じて良質であることが分かりました。また、最近では昆虫食が話題になっていますが、イエコオロギ(76%)やアメリカミズアブ(57%)と比べても、畜産物の方が質の良いたんぱく質を含んでいることが分かります。

 

食料と飼料との競合

 肉牛の肥育に必要な飼料に含まれるたんぱく質の量は、肉牛自体に含まれるたんぱく質量の8.3倍に相当します。このような結果が、「穀物を直接食料として食べる方が、穀物を飼料として与えた畜産物を食べるよりも効率が良いのではないか」という意見の根拠となっています。しかし、ウシは実際には穀物だけでなく人間が食用としない牧草や野草も食べており、その点も踏まえればその数値は3.0倍に縮まります。また、酪農(乳製品)では0.7となり、必ずしも非効率的とはいえません。先に述べたようなたんぱく質の良質さを考慮すれば、畜産物の摂取はある程度正当化されるのではないかと考えています。

畜産由来の温室効果ガスの問題

 畜産物と穀物において、GHG(温室効果ガス)あたりのたんぱく質生産効率を比較した研究があります。数値が高いほど環境負荷が少ないということになるのですが、畜産物は穀物に比べて数値が低く、これが「畜産物が温室効果ガスを多く排出する」といわれる根拠となっています。また、世界全体の温室効果ガス排出量に占める農業の割合は約10%です。その10%のうち、家畜消化管内発酵によるメタンの排出が約40%占めていることから、今、世界的に家畜からのメタン排出が問題になっています。しかし、日本に限って見てみると、農林水産分野のGHG排出量は全体の3.9%です。さらに、農林水産分野で排出されるGHGのうちメタン排出量についていえば、家畜の消化管内発酵よりも稲作の方が多いのです。少ないとはいえGHGを排出していることは問題となりますが、日本の場合は家畜由来のGHGはそれほど大きいわけではないということも知っていただけたらと思います。

 ところで、ウシなど反芻家畜といわれる動物は、どのようなメカニズムでメタンを出すのでしょうか。反芻家畜は、ヒトが消化することができないセルロースを多く含む牧草や野草を食べています。そして、4つある胃のうちの第1胃にいる様々な微生物がセルロースを分解し、その過程で水素が生じます。胃の中に水素が充満すれば牛は死んでしまうのですが、メタン細菌と呼ばれる微生物がその水素をメタンに変え、ゲップとして放出するのです。つまり、牛にとってはメタンの放出は生理機能なのです。とはいえ、環境の観点からは、反芻家畜の消化管内発酵によるメタンの低減が求められます。そこで、畜産分野においても「家畜に悪い影響を与えずに、いかにメタンを低減するか」が研究の中枢の1つとなっています。なお、我々の研究室で行った研究では、試験管内の結果ではありますが、亜麻仁油脂肪酸Caを給与することによって、コントロール群と比べて67%のメタンを低減できることが分かりました。地球の大気は人類全体の共有財産です。メタンは目に見えないうえに大気中に放出されると発生源と発生量の特定が困難で、解決が難しい問題です。しかし、今後この方面の研究が進み、効率の良いメタン低減技術が確立するのではないかと考えています。

 

 最後に、“家畜”について改めて考えてみたいと思います。家畜とは人類が利用するために野生動物から遺伝的に改良した動物で、飼育・繁殖がヒトの管理下におかれている動物のことをいいます。家畜になれなかった動物には、発育が遅い、飼育下での繁殖が難しい、社会性が欠如しているなどの特徴があり、その多くは絶滅したか絶滅危機で動物園などでしか見ることができません。家畜を人間が食べることを否定する意見もありますが、一方で、家畜は人間がその必要性を重視したからこそ今も残っているということも忘れてはならないでしょう。

 

講演ダイジェスト動画


▽第24回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓

一覧へ戻る