メールマガジン「Nutrition News」 Vol.240
第25回ダノン健康栄養フォーラムより
フレイル対策の重要性

国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 前院長・顧問
東京大学 名誉教授
大内 尉義

 

 フレイルとは英語の“frailty”を日本語にしたもので、健康な状態から徐々にからだの機能が衰えて要支援・要介護の状態になる、その移行期の状態をいいます。frailtyは「虚弱」を意味する言葉です。しかし、「虚弱」ではfrailtyのもつ可逆性(しかるべき介入により再び健常な状態に戻る)の概念や、多面的な要素(身体的、精神・心理的、社会的な要素)を十分に表現できていないことから、日本老年医学会は2014年に“フレイル”という新たな概念を提唱しました。

フレイルとサルコペニア

 フレイルの判定には、一般的にJ-CHS基準が使われます。これは、次の5項目のうち3項目以上に該当するとフレイルと診断するというものです。

  • 6か月間で2㎏以上の体重減少がある
  • 握力低下(男性28㎏未満、女性18㎏未満)
  • ここ2週間、訳もなく疲れた感じがする
  • 歩行速度が0/秒未満
  • 定期的に運動・スポーツをしていない

 J-CHS基準のほとんどの項目に、筋量の低下が関わっています。これがサルコペニア(加齢性筋肉減少症)とよばれる概念です。サルコペニアの状態になると筋力が衰えるため転びやすくなります。それにより骨折をし、移動能力やADL(日常生活動作)が低下します。また、肺炎をはじめとした様々な疾患にかかりやすくなり、死亡のリスクも高まります。サルコペニアには、一次性サルコペニア(加齢性)と二次性サルコペニア(栄養障害、廃用性)があり、実際の高齢者はこれらの状態が混在していると考えられます。

 また、筋肉量の減少と肥満を併せ持っている状態をサルコペニア肥満といいます。サルコペニア肥満では単なる肥満よりもフレイルが進行しやすいこと、心血管リスクが増加すること、一見元気そうに見えるためにフレイルチェックが遅れることなどが問題となります。

 

フレイルを予防するには?

 フレイルを予防するためには、栄養・運動・社会参加の3つが大きな柱となります。

  • ①栄養の重要性

栄養面では、適正なエネルギー量で、十分なタンパク質を摂取することが大切です。高齢者のタンパク質摂取は1.01.1//日程度が目安とされていますが、フレイル予防のためには1.21.5g//日程度のタンパク質を摂取する必要があります。また、ビタミンDの不足を防ぐ観点から日光浴も重要です。さらに、食事の多様性にも注意する必要があります。

ここで問題となるのが、慢性腎臓病の高齢者の場合です。従来は、腎機能が低下している場合にはタンパク質を制限する食事療法が進められてきました。しかし、サルコペニアがある人では、ない人と比較して生存率が悪くなることなどから、現在は過度のたんぱく制限を見直そうという動きがでてきています。

なお、最近注目されているのが、ロイシンが代謝された物質であるβヒドロキシンβメチル酪酸(HMB)です。後肢懸垂モデル(後肢に体重がかからないようにする)マウスを用いてヒラメ筋の重量の変化を比較した実験では、HMBを投与した群ではHMBを投与していない群にくらべて筋肉の重量が増加するという結果が得られましたし、実際の高齢者においてもHMBの投与によって骨格筋量の改善が見られました。

栄養摂取の考え方は年齢によって変わります。中年ではメタボ対策として栄養摂取を制限する方向で指導が行われますが、7580歳をターニングポイントとして、栄養不足の対策にシフトする必要があるのです。糖尿病や慢性腎臓病に留意しつつ、高齢者ではしっかり食べることが重要だということです。

 

  • ②運動の重要性

フレイル予防における運動は、筋トレなどの無酸素運動と歩行やジョギングなどの有酸素運動を組み合わせて行うことが大切です。

骨格筋には赤筋(遅筋)と白筋(速筋)の2種類があり、赤筋を鍛えるには有酸素運動、白筋を鍛えるには無酸素運動がそれぞれ効果的といわれています。サルコペニアでは主として白筋が委縮することが知られており、フレイル予防には高齢者でも筋トレが勧められます。しかし、高齢になっても筋トレの効果はあるのでしょうか?

鹿児島県の地域住民30名(平均年齢76.5歳)のサーキットトレーニングの効果を調べたところ、握力と歩行速度に有意な改善が見られました。さらに、筋量が多い群と少ない群を中央値で分けて比較したところ、筋量の低い群においても握力と歩行速度が有意に改善しました。つまり、高齢でも筋トレが効果的であるということです。

 

  • ③社会参加の重要性

フレイル予防には、人とのつながり(=社会参加)も非常に大切です。身体活動、文化活動、ボランティア・地域活動のすべてを行っている人のフレイル発症リスクを1とすると、いずれも行っていない人のリスクは16.4倍に増加するという研究結果が報告されています。このデータでさらに興味深いのは、身体活動は行っているけれど他の活動は行っていない人のフレイルリスクが6.4倍なのに対し、身体活動は行っていないけれど文化活動とボランティア・地域活動を行っている人では2.2倍までリスクが低下したという点です。文化活動やボランティア・地域活動などの社会参加がいかにフレイル予防に効果的であるかを如実に示すデータです。

 

毎年2月1日は“フレイルの日”です。これは、スマートウェルネスコミュニティ協議会、日本老年学会、日本老年医学会、日本サルコペニア・フレイル学会の4団体で2019年に日本記念日協会に申請し、認められたものです。“2月01日”ということで、2=「フ」、0=「レイ」、そして1=(ちょっと厳しいですが)「“まとまる”のル」です。このような記念日を設定することも、フレイル予防のためのポピュレーションアプローチの一環であると考えています。

フレイルを予防して、身体的にも精神的にも健康な状態(=健幸)で長生きしましょう!

 

講演ダイジェスト動画


▽第25回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓
 ┗ https://www.danone-institute.or.jp/forum/32471.html
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