メールマガジン「Nutrition News」 Vol.137
「加熱時に生じるアクリルアミドの食品健康影響評価」
 アクリルアミドは主に接着剤や塗料などに用いられる物質で、動物を用いた試験では、神経毒性や発がん性等が確認されています。2002年に、スウェーデン食品庁とストックホルム大学が、揚げたり焼いたりしたじゃがいもの加工品などにアクリルアミドが含まれることを世界で初めて発表したことから、食品安全上の問題としてアクリルアミドが注目されるきっかけとなりました。  
 日本では、2011年に食品安全委員会が「加熱時に生じるアクリルアミド」について自ら食品健康影響評価を行うことを決定し、審議が重ねられてきました。そして、2016年2月、それらの審議結果をまとめた評価書案が公表されました。

アクリルアミドの生成経路

  アクリルアミドは、「揚げる」「焼く」など120℃以上の加熱調理によって、食品中のアスパラギンと還元糖(果糖、ブドウ糖など)がアミノカルボニル反応を起こす過程で生成すると考えられています。つまり、食品中に含まれるアクリルアミドの量は調理方法に依るところが大きく、「揚げる」「焼く」「炒める」「あぶる」などの調理方法ではアクリルアミドを生成しやすくなり、「煮る」「蒸す」「ゆでる」などの調理方法ではアクリルアミドを生成しにくくなります。
 
アクリルアミドを多く含む食品の例
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 農林水産省ホームページをもとに作成
 
 なお、体内に入ったアクリルアミドは、広範な組織に分布しますが、代謝された後尿中に排泄されるため、蓄積はしないとされています。

日本人のアクリルアミドばく露量

 私たちは、加熱調理した食品から日常的にアクリルアミドを摂取しています。国民健康・栄養調査のデータなどに基づいて推定した結果、日本人のアクリルアミドの推定摂取量は、0.240μg/kg体重/日であることがわかりました。その内訳は、高温調理した野菜が56%と最も多く、次いで飲料や菓子類が多くなっています。
 
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食品安全委員会資料をもとに作成
 
 なお、諸外国のアクリルアミド摂取量は、香港(2013年)0.21μg/kg体重/日、EU(2015年)0.4~1.9μg/kg体重/日、カナダ(2012年)0.157~0.609μg/kg体重/日、オーストラリア・ニュージーランド(2014年)1~4μg/kg体重/日などとなっています。日本のアクリルアミド摂取量は、諸外国と比較して同程度もしくは低い値であることがわかります。

アクリルアミドの毒性とリスク評価

 動物実験の結果から、アクリルアミドには、非発がん性の毒性(神経毒性など)および発がん性の毒性があることが分かっています。特に発がん性については、乳腺や肺、前胃など様々な臓器において発がん頻度が有意に増加するとともに、多くの遺伝毒性試験で陽性であったことから、アクリルアミドは遺伝毒性を有する発がん物質(DNAを損傷し、細胞をがん化させる物質)であると判断されています。一方で、ヒトにおける疫学研究では、アクリルアミドのばく露量とがん発生率の関連に一貫した傾向はみられていません。  
 また、動物実験で10%がんを増やすアクリルアミドの摂取量(BMDL10)は170~300μg/kg体重/日であり、平均的な日本人のアクリルアミド摂取量(0.24μg/kg体重/日)との差は約千倍となっています。この差のことを「ばく露マージン(MOE)」と言い、これが1万倍以下の場合には対策の必要があるとされています。  
 これらを踏まえ、食品安全委員会はアクリルアミドのリスク評価について、ヒトにおける健康影響は明確ではないが、公衆衛生上の観点から懸念がないとは言えず、ALARA※の原則にのっとり、できる限りアクリルアミド摂取量の低減に努める必要があると結論づけました。

※ALARA:as low as reasonably achievable(合理的に達成可能な範囲でできる限り低減)。

アクリルアミドの低減方法

  アクリルアミドの摂取量を低減するためには、食材の準備や加熱調理の各段階において“アクリルアミドに変化する成分を増やさない(減らす)”ことや、“加熱によるアクリルアミドの増加を抑える”ことがポイントとなります。
 
【アクリルアミドに変化する成分を増やさない(減らす)】
●じゃがいもは常温で保存する
じゃがいもを長期間冷蔵すると、還元糖が増加します。
●いも類や野菜類を切った後、水でさらす
水でさらすことによって、アスパラギンや還元糖を食材表面から洗い流すことができます。

【加熱によるアクリルアミドの増加を抑える】
●加熱調理時に食材を焦がしすぎない
加熱温度が高く、加熱時間が長いほど、アクリルアミド濃度が高くなります。
●炒めるときは食材をよくかき混ぜる
食材の一部分のみが高温になることを防ぎます。
●炒め調理の一部を蒸し煮に置き換え、炒め時間を短くする
「蒸す」「煮る」など水を利用した加熱では食材の温度が120℃以上になることがないため、アクリルアミドの生成を抑えることができます。

 加熱によりアクリルアミドを生成するからといって、加熱をやめたり、加熱した食品の摂取を減らしたりすれば、必要な栄養素を充足できなくなる可能性があるばかりか、食中毒のリスクを高めたり、消化を悪くしたりすることにもつながります。野菜をはじめとする様々な食品を摂るようにすることで栄養バランスが整い、健康維持に必要な栄養素を十分に摂取できるとともに、健康に悪影響を及ぼす成分の摂取量も低く抑えることができるでしょう。食生活について考えるときには、特定の成分に注目しすぎるのではなく、「食べ物全体」で捉えることが大切です。

 
参考
加熱時に生じるアクリルアミド 評価書(案)(食品安全委員会)
https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc5_aa_acrylamide_280217.data/pc5_aa_acrylamide_280217.pdf
食品安全委員会セミナー「加熱時に生じるアクリルアミドの食品健康影響評価及び低減対策について」(食品安全委員会)
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20160303ik2
食品中のアクリルアミドに関する情報(農林水産省)http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/index.html
 
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