「成分表の改定でエネルギー計算の常識が変わる!?」
文部科学省では、現在、日本食品標準成分表2020年版(八訂)(仮称)の2020年中の公表に向けた検討を進めています。現行の七訂からの変更点はいくつかありますが、大きなポイントとして挙げられるのが、エネルギー値の算出方法が変更されることです。
修正Atwater法によるエネルギー計算の欠点
これまで、日本食品標準成分表(以下、成分表)のエネルギー値については、基本的に、たんぱく質、脂質、炭水化物、その他のエネルギー産生成分(アルコール、酢酸等)の量に、各成分のエネルギー換算係数を乗じて求められていました(修正Atwater法)。
エネルギー(kcal)=たんぱく質(g)×4 +脂質(g)×9 +炭水化物(g)×4(+アルコール(g)×7 等)
しかし、この従来のエネルギー計算にはいくつかの欠点がありました。
① 食品ごとのエネルギー換算係数の算定が困難
現在成分表に収載されている食品の一部は、四訂成分表の策定時に行われたヒト消化性試験の結果に基づいた個別のエネルギー換算係数を適用してエネルギー値が算出されています。しかし、消化吸収には個人差があることや、試験自体にかかるコストなどがヒト試験を拡大する上での課題となっていました。そのため、四訂以降ヒト試験は実施されておらず、多くの未調査食品において1910年に当時のアメリカの標準的な食事をモデルに策定されたAtwater係数が適用されているのが現状です。
- ② きのこ類、藻類のエネルギー値
難消化性有機物を多く含むきのこ類や藻類等については、消化吸収率の個人差が大きいことから、ヒト試験による係数の適用が困難とされ、五訂成分表以降の暫定措置として、Atwater係数による算出値の1/2がエネルギー値とされています。
- ③ 炭水化物に一律のエネルギー換算係数を適用
従来の成分表では、炭水化物を“たんぱく質・脂質ではない有機物の総体”とし、全量から他の成分を引いた残量として成分値が算出されています。炭水化物の組成成分には糖質や食物繊維等があり、それぞれ体内での消化性も多様ですが、現状ではそれらに対して一律のエネルギー換算係数が適用されています。
- ④一般成分中の組成成分構成が食品ごとに異なる
たんぱく質におけるアミノ酸組成、脂質における脂肪酸組成等、組成成分の構成が食品ごとに異なることは、エネルギー値算出にあたっての誤差の要因として指摘されていました。
『組成ごとのエネルギー換算係数』を用いた算出法へ
そこで、これらの欠点を補うエネルギー算出方法として、国際的にも推奨されている『組成ごとのエネルギー換算係数』を乗じた算出方法が、八訂成分表から取り入れられることになりました。具体的な算出方法は次の通りです。
エネルギー(kcal)=アミノ酸組成によるたんぱく質(g)×4 +脂肪酸のトリアシルグリセロール当量(g)×9 +利用可能炭水化物(単糖当量)(g)×3.75 +糖アルコール(g)×2.4 +食物繊維総量(g)×2 +有機酸(g)×3 +アルコール(g)×7
※ 糖アルコール及び有機酸のうち個別のエネルギー換算係数を適用する化合物等はその係数を用いる
※ 組成の成分値がない場合は、当該成分に対してのみ従来法の成分値による計算で代替する
新たな計算方法でエネルギー値はどのくらい変わる?
文部科学省の委員会は、全2,294食品について、新たな計算方法と従来の計算方法によるエネルギー値の変動を試算しました。その結果、新たな計算方法によってエネルギー値が増加した食品で最も変動が大きかったのは「ピュアココア(食品番号:16048)」で+115kcal、エネルギー値が減少した食品で最も変動が大きかったのは「せん茶(茶葉)(食品番号:16036)」で-114kcalでした。ココアについては、従来適用していたFAOの換算係数が低めに設定されていたこと、せん茶については、炭水化物の大部分を占める食物繊維の換算係数を使用したことがエネルギー値の大きな変動の要因として考えられます。
また、委員会は、食品摂取量ベースでのエネルギー値の変動を検証するため、平成26年度の国民健康・栄養調査の調査票データをもとに、1日約1,900kcalを摂取すると仮定し、各食品のエネルギー値を試算しました。その結果、摂取頻度が高い食品では「こめ(水稲めし)(食品番号:01088)」で-36.0kcal、「鶏卵(食品番号:12004)」で-9.7kcalの減少を示しています(表1)。
表1 摂取頻度を加味した場合のカロリー変動の大きい食品例
第18回食品成分委員会(文部科学省)の資料をもとに作成
なお、「ほうれんそう(食品番号:06267)」(約1.7 kcal増加)、「柿(食品番号:07049)」「バナナ(食品番号:07107)」(それぞれ約0.7 kcal増加)などでは、エネルギー値の増加が見られています。食品群別に見た摂取量ベースでのエネルギー値の変動を表2に示します。
表2 食品群別のカロリー変動(摂取量ベース)
※「食品数」はH26国民健康・栄養調査調査票に出現した成分表収載食品の数
第18回食品成分委員会(文部科学省)の資料をもとに作成
八訂成分表を用いると、実際の摂取エネルギーにより近いエネルギー値を算出することができます。一方で、これまでの方法で算出したエネルギー値との比較はできなくなるため注意が必要です。
八訂成分表への改定は、エネルギー計算の常識を覆す大きな変更点を含んでいます。管理栄養士・栄養士の業務にも少なからず影響を及ぼすものとして、しっかりとポイントをおさえておく必要があるでしょう。
※この記事は、2020年7月15日現在の情報をもとに作成しています。
詳細は下記をご参照下さい。
日本食品標準成分表のエネルギー値の算出方法を変更します(文部科学省)
https://www.jsnfs.or.jp/wp-content/uploads/file/news/news_20200511_jsnfs.pdf
第18回食品成分委員会配布資料「組成に基づく成分値を基礎としたエネルギー値の算出について(案)」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/1422931_003_1422931_03.pdf