メールマガジン「Nutrition News」 Vol.196
2018年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
ヒトの概日時計調節における摂食の役割
山口大学 時間学研究所    
明石 真 先生

要旨

 地球上に暮らす生物は概日リズムを持っています。これら生活のリズムは概日時計によって生み出されていることが知られています。加齢によって概日リズムが乱れることも明らかになってきていますが、この乱れは多様な疾患の発症に関与するとされており、生涯を通じて安定的に維持されることが望まれています。

 高齢者の概日リズムについては、技術的な問題から研究があまり進んできておりません。著者らは独自に開発した頭髪サンプリングによる時計遺伝子発現解析法を駆使し、高齢者の概日リズムについて詳しく調べました。その結果、光による調節に加え、光に依存しない調節機構が存在することを明らかにしました。後者のうちの一つは摂食のタイミングであることを明らかにしています。

 

【内容】

 ほとんど全ての生物は行動生理において概日リズムを示しており、これは概日時計(約24時間周期の生物時計)によって生み出されていることが知られている。私たちは、行動リズム異常を示す認知症の後期高齢者を対象に末梢概日時計の機能を調べてきた。意外なことに、これら被験者の末梢概日時計の位相はほぼ正常であった。光による概日時計調節機能の低下を考慮すると、末梢概日時計は光とは別の経路によって位相調節されていることが示唆された。摂食入力が末梢概日時計の調節因子として重要であることが動物実験で明らかとなっていることから、ヒトでも同様であるかどうかを調べるために、静脈栄養による介入を受けている後期高齢者を対象に末梢概日時計の機能を検証した。その結果、規則正しい摂食刺激の喪失により、位相異常あるいは概日リズムの消失が明らかとなった。

 概日時計位相異常は多様な現代病の発症に深く関わっていることが知られている。これまで、高照度光治療による概日時計調節が注目されてきたが、今回、規則正しい食生活の維持が重要であることが示された。特に、加齢や神経変性疾患によって光入力経路に障害を持つ患者においては、摂食による概日時計調節はより重要な意義をもつものと考えられる。

 

 

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