メールマガジン「Nutrition News」 Vol.172
2016年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
腸内細菌叢からみた貧血の新規メカニズムの解析
横浜市立大学 医学部 循環器腎臓内科学 

橋本 達夫 先生

要旨

 腸内細菌叢は様々な病態に深く関わっていることがわかってきた。私たちは、必須アミノ酸吸収障害が腸内環境を悪化させていることを見出し、栄養障害による腸炎の意外なメカニズムを発見した。その解析に用いたアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)遺伝子欠損マウスは、必須アミノ酸の吸収に障害があった。そのために抗菌ペプチド発現の低下および腸内細菌叢の変化がおこっており、薬剤誘発性腸炎の程度がひどかった。また、ACE2遺伝子欠損マウスは、腸内環境が悪化しているだけではなく、貧血を呈していることが分かった。しかし、貧血と腸内細菌叢との関係は不明であった。

 

 そこで本研究では、貧血と腸内細菌叢との関係を明らかにすることを目的とした。ACE2遺伝子欠損マウスは大球性貧血であり、抗生物質投与によってこの貧血は改善した。このことは、腸内細菌叢が貧血と関連していることを示唆した。一方、ACE2遺伝子欠損マウスでは血漿トリプトファン濃度が低下しているため、トリプトファン欠乏食負荷を野生型マウスで行った。トリプトファン欠乏食負荷では、炎症反応の亢進を伴わずに肝臓でのヘプシジン*遺伝子発現を亢進させ、小球性貧血を引き起こしていた。ACE2遺伝子欠損マウスとトリプトファン欠乏食負荷マウスとでは、ともに貧血を呈するが、それぞれ大球性貧血と小球性貧血と貧血のメカニズムが異なることが判明した。これらの結果より、ACE2遺伝子欠損マウスでは、腸内細菌叢の変化が貧血に関わっている可能性が示唆された。今後、さらなる解析が必要である。

*ヘプシジン
肝臓から分泌される鉄代謝を制御する分子

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