メールマガジン「Nutrition News」 Vol.166
2016年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
 乳幼児期のマルトリートメント、とくに低栄養経験が子どもの脳発達に及ぼす影響に関する研究
 福井大学 子どものこころの発達研究センター 発達支援研究部門
 
  友田 明美 先生

要旨

 愛着(アタッチメント)は、「子どもと特定の母性的人物に形成される強い情緒的な結びつき」である。しかし、虐待などの不適切な養育を受けると、安定した愛着がうまく形成されず、場合によっては反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder:RAD)を発症することが分かってきた。RADを発症した子どもたちは、自己肯定感が極端に低く、褒め言葉がなかなか心に響かない特徴があり、他者に対する社会的または感情的な反応性に問題を抱えているため、彼(彼女)らの社会不適応が深刻化している。また、RADの症状では社会性・対人関係に問題行動が見られ、発達障害と似た特徴があるため鑑別診断が困難であることも指摘されている。一方で、発達期の低栄養や飢餓が脳の発育に多大な影響を及ぼすことは、身体の成長・発育の遅延、免疫機能の低下をきたすこととともによく知られている。胎児期もさることながら、乳幼児期の低栄養はその後の成長・発育に重大な影響を及ぼす。

 本研究では、乳幼児期に低栄養経験のある愛着障害患児のMRI検査と現在の栄養状態を評価した。本研究結果でもルーマニア孤児研究など不適切な養育を受けた子どもの先行研究と同様に放線冠や脳梁などにおいて、RAD群の拡散異方性FA(Fractional Anisotropy)値が定型発達群より有意に低下していた(P< 0.05, TFCE-corrected)。また、血中プレアルブミン値において、RAD群は基準値より有意に低下していた。このことから、RAD群では感情や精神病理に関わる部位の脳内白質異常と一部の低栄養状態が現在もあることが示唆された。

今後RADの病態の理解を深め、治療方法の開発につなげるためには、RADの報酬への反応や社会性や対人関係の問題に関与する神経生物学的な基盤を明らかにしていく必要がある。

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