2024年1月4日発行

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.242
第25回ダノン健康栄養フォーラムより
社会的要因とフレイル

名古屋鉄道健康保険組合 名鉄病院 病院長
葛谷 雅文

 

 社会的フレイルとは、社会的なネットワークが脆弱であることを示す言葉です。社会的フレイルは身体的フレイルの要因となり、さらに身体的フレイルによる高齢者の健康障害を悪化することが報告されていることからも、健康寿命の延伸を目指す上でとても重要な概念です。

 しかし、社会的フレイルが健康障害につながるプロセスにおいては、社会的フレイルが身体的フレイルに関与した結果として健康障害を引き起こすのか、それとも社会的フレイル自体が健康障害を直接引き起こすのか、という疑問もわいてきます。そこで、社会的フレイルと身体的フレイルの関係について考えてみたいと思います。

社会的フレイルと身体的フレイルの関係

 島根県の隠岐の島で高齢者616名を対象に、5つの社会参加(ボランティア活動、スポーツ、近所付き合い、宗教関連、高齢者サロン)と身体的フレイルの関係を横断的に調査した研究では、関わっている社会活動が多いほど身体的フレイルとの関係性が低くなるという結果が得られています。また、65歳以上の193名について登録時に社会的フレイルの評価を行い、3年後の身体的フレイルの状態との関連を調べた研究では、社会活動がない人では社会活動がある人にくらべて約3.8倍、孤独感がある人では孤独感がない人にくらべて約3.7倍、身体的フレイルのリスクが高まることが報告されています。

 これらの結果は、社会的フレイルの存在が身体的フレイルと関係し、さらに社会的フレイルが存在すると将来の身体的フレイルのリスクとなることを示唆しています。

 次に、社会的フレイル自体が高齢者の健康障害や要介護状態に影響しているのかどうかについて、データをもとに考えてみたいと思います。

社会的フレイルと高齢者の健康障害の関係

 愛知県の武豊町で、市民サロンの5年間の使用頻度と要介護認定との関連を調べた研究では、サロンに3回以上参加した群ではそれ未満の群とくらべて要介護認定された割合が有意に低かったという結果が報告されています。また、呼びかけに応じて市民サロンを年に4回以上使用した群では、そうでない群とくらべて認知機能の低下リスクが低かったという結果も得られています。

 社会的フレイルと身体機能障害への影響を調べたシンガポールの研究では、社会的フレイルは単独でも身体機能障害の発症リスクとなり、さらに社会的フレイルに身体的フレイルを合併するとそのリスクが増強されることを示す結果が出ています。

 これらのデータは、社会的フレイル自体が高齢者の健康障害や要介護状態に直結すること、そして社会的フレイルと身体的フレイルの両方が存在すると健康障害や要介護状態を生じるリスクが跳ね上がることを示しているといえるでしょう。

 社会的フレイルの存在は、身体活動の低下や孤食の増加、抑うつ感の増強などを介して食欲の低下につながります。また、身体活動が低下すれば筋力が衰えることでサルコペニアにつながりますし、食欲の低下もまた低栄養を介してサルコペニアにつながります。「身体活動の低下」「食欲の低下」「抑うつ(疲労感)」「低栄養」「サルコペニア」は、いずれも身体的フレイルの診断に用いる項目です。つまり、社会的フレイルの存在は、まさしく身体的フレイルに直結しているということです。

ソーシャルキャピタルとフレイル

 社会的な要因とフレイルとの関係を考えるときのキーワードの1つに“ソーシャルキャピタル”があります。これはアメリカの政治学者パットナム氏によって提案された、社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念で、日本語では“社会関係資本”や“社会的資本”と訳されます。ソーシャルキャピタルを構成するのは、信頼、規範、ネットワークという3つの要素です。ソーシャルキャピタルが蓄積された社会では、相互の信頼や協力が得られるため、他人への警戒心がなく、治安・経済・教育・健康・幸福感などに良い影響があり、社会の効率性が高まるとされています。

 ソーシャルキャピタルの中には、社会的凝集性(集団を1つにまとめる求心力)という“集団の特性”と、個人的なネットワークという“個人の特性”が含まれます。そこで、「個人的な社会とのネットワークがなくても、ソーシャルキャピタルの高い地域に住んでいることだけで健康上のメリットがあるのでは?」という仮説が立てられます。実際、約20,000名の高齢者について、社会レベルのソーシャルキャピタルと身体的フレイル発症との関係を調べた研究で、市民参加(ボランティア、スポーツなど)に関するソーシャルキャピタルと、その地域の身体的フレイル発症との間に有意な関連が見られています。この結果は、コミュニティーレベルにおける市民参加ができるような社会は、フレイル予防につながる可能性があることを示唆しています。

 身体的フレイルや高齢者の健康障害は、社会的フレイルとも関係していますし、精神・心理的フレイルも含む疾病や生活習慣とも関係しています。そして、社会的フレイルには個人と社会との関係性が影響していますが、実はその背景にはコミュニティーのソーシャルキャピタルの問題や、地域の構造的な環境といったような複雑な要因が入り混じっているのではないかと考えています。

 

講演ダイジェスト動画


▽第25回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓
 ┗ https://www.danone-institute.or.jp/forum/32471.html
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