メールマガジン「Nutrition News」 Vol.241
第25回ダノン健康栄養フォーラムより
フレイルとこころの健康

国立長寿医療研究センター 老化疫学研究部 部長
大塚 礼

 

 国立長寿医療研究センターでは、老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)を行っています。1997年に始まった第1次調査では無作為に抽出した40歳代、50歳代、60歳代、70歳代(当時)の男女約2,300名の方を対象に調査を行いました。その後、第2次、第3次、第4次…と繰り返し同じ調査をすることによって老化に関するデータを収集しています。現在は第10次調査を行っています。調査の内容は老年医学領域の項目が中心ですが、それ以外の関連する要因-運動や栄養、心理の調査も行っています。本日は、これらの調査から分かったことなどについてご紹介します。

加齢にともなう機能低下

 人間は、加齢にともなって様々な機能が低下していきます。例えば、閉眼片脚立ち時間(目をつぶって片脚で何秒間立っていられるかを検査するもの)の平均値からも、男性・女性ともに高齢になるほどバランス能力が落ちていくということが示されています。また、握力や聴力なども年齢とともに低下していく傾向があります。さらに、脳の記憶を司る領域である海馬の容積は40歳頃から減少していきますが、高齢になるとその減少の程度は大きくなることがわかってきました。
 しかし、これらの機能低下には個人差があり、機能を高く維持し続ける人もいれば低下する人もいます。また、結晶性知能(長年の経験や学習から得た知能)のように、高齢になっても高く保たれている機能があることも重要なポイントです。

フレイルとこころ

 フレイルとこころの健康には、きれいな相関関係があります。例えば、フレイルの方では、健常の方に比べて生活満足度や自尊感情が低いということがデータで示されています。
 また、休日や余暇の過ごし方と認知機能低下の関係を調べたところ、休日や余暇に趣味の活動を行っている方では認知機能低下リスクが低いことが示されました。「家でごろ寝」や「買い物、外食」の場合は、認知機能低下に対して有意な影響はなく、自分のやりたいことや関心のあることを自主的に選択して行動することが脳のフレイル予防につながっていると考えられます。
 さらに、神経質傾向、外向性、開放性、調和性、誠実性という5つのパーソナリティと認知機能低下との関連について、誠実性が高いほど認知機能が低下するリスクが低いという結果が得られました。様々な個性がある中でも、物事に真面目にコツコツ取り組むという性格がフレイル予防と関連しているかもしれません。

フレイルを予防するために

 代表的な健康習慣ともいえる「たばこを吸わない」「ほどほどの飲酒」「習慣的な運動」「適度な睡眠」「適正体重を保つ」「いろいろな食品を食べる」「生きがいをもつ」「健康診断を受ける」の7つの習慣について、その保持数と自立度との関連を調べたところ、保持数が多いほど高齢期の自立が維持されるというデータが得られました。特に興味深いのは、1つでも多く良い習慣を保持している人ほど自立が維持されているという点です。つまり、自分のできることを1つ増やすだけでも将来の自立の確率を高めると考えられます。また、健康習慣の保持数が多いほど脳の萎縮がおさえられることもわかっています。
 加えて“自分の役割”をもつことも大切です。私たちの研究では、役割と幸福感の関連について、自分には役割がないと考えている人では幸福感が低い結果を得ています。その役割というのは“家庭内”でもよく、ご本人が「自分は一家の大黒柱だ(自分は大黒柱の役割を担っている)」と思っているだけでも幸福感が高くなるという結果が得られました。自分にできる範囲で何らかの役割を持つということが、こころの健康に直結していることを示しています。

こころとからだの栄養

 高齢期の栄養では、“メタボ予防”から“低栄養予防”へのシフトが重要です。しかし、実際に食事秤量記録調査でいろいろな方の食事の内容をみてみると、一見バランスのよさそうな食事でも実はタンパク質が少し不足している…というケースがしばしば見受けられます。そのような場合には「朝食に乳製品やゆで卵を足す」「夕食では肉か魚のおかずを食べるようにする」などの工夫でたんぱく質の不足を補うことができます。また、料理に足すことができるスキムミルクやきなこを活用したり、栄養強化食品や栄養補助食品、サプリメントなどをうまく取り入れたりすることで、プラスアルファの栄養をとることができるでしょう。自分で食べられる方の場合はサプリメント等よりも食物から栄養をとっていただきたく、1回の食事量が少ない方は、栄養価の高いおやつをこまめにとるなどの心がけが大切です。
 食事は基本的な生活習慣である一方で、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感をフル活用するという、刺激的な生活習慣でもあります。高齢期に1日3回決まった時間に食事をとることは、栄養補給としての役割のみならず、“五感の刺激”という点においても重要であると考えます。さらに、食事というのは精神的な満足度に直結します。おいしいものを食べると誰しも幸せな気持ちになるものです。そんな、こころが温かくなるような食事の工夫が大切なのではないかと思います。私自身、1日に1回は“自分のために考えた食事”をとりたいと思っているところです。
 このように、食事というのはこころの健康に直結しています。低栄養予防を意識しながらも、食事を通して心身への栄養補給を行っていただきたいと思っています。

 

 

※国立長寿医療研究センターの「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」で明らかになったことは、下記のホームページで紹介されています。

すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~(国立長寿医療研究センター)

https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/

 

 

講演ダイジェスト動画


▽第25回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓
 ┗ https://www.danone-institute.or.jp/forum/32471.html
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