2023年11月1日発行

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.240
「女性の健康こそ社会の健康の礎 ー 第19回ダノン健康栄養フォーラムより「若い女性の栄養と次世代の健康」」

 近年、“女性の健康問題”に注目が集まっています。厚生労働省の「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」では、若年女性のやせを重要な社会課題と捉え、産官学等連携のもと、改善に向けた取組を進めています。また、令和6年よりスタートする「健康日本 21(第三次)」には、女性の健康課題の解決に関する項目が新設されました。

 若い女性のやせは、本人のみならず次世代にも悪影響を及ぼします。健やかな未来のために、この問題への対策は急務といえるでしょう。そこで、平成299月、「子どもの健康と食事・栄養」をテーマに開催された第19回ダノン健康栄養フォーラムから、早稲田大学(当時)の福岡秀興先生のご講演「若い女性の栄養と次世代の健康」の要旨をご紹介します。

第19回ダノン健康栄養フォーラムより「若い女性の栄養と次世代の健康」

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究院 教授 / 千葉大学 客員教授(当時)
福岡 秀興 先生


 近年、やせ願望が若年化しており、20代の女性では4~5人に1人が「やせ(BMI18.5以下)」という状態が続いています。その背景には、20代女性のエネルギー摂取量の減少があります。エネルギー摂取量が減るということは、それに伴い必要な栄養素の摂取も不足するということです。このことは本人のみならず、次世代にとっても望ましくない影響をもたらします。

急なダイエットと卵巣機能低下

  急なダイエットはなぜ危険なのでしょうか。「やせ」・体重減少は、脂肪組織の減少です。ヒトの体内で最大の内分泌臓器である脂肪が急激に減少するのですから、様々な障害が生じるのは当然です。中でも、卵巣機能低下との関連は重要で、BMIでは18以下、体脂肪率では15%以下になると月経異常が生じ易くなるという結果が出ています。卵巣機能が低下していく過程は、エストロゲンの分泌が少なくなり(低エストロゲン血症)、まず排卵が起こりにくくなり(月経不順)、次いで無排卵となります(無月経)。無月経は、第一度無月経、第二度無月経と進展増悪していきます。第二度無月経は極めて重症で、卵巣機能の回復する割合は約50~60%と言われており、残りはその回復がほとんど期待できません。治療薬の開発が求められます。
 卵巣機能の低下による低エストロゲン血症は、短期的にはホットフラッシュ、動悸などのいわゆる更年期障害症状の出現、中期的には骨量減少・脂質異常、長期的には動脈硬化、冠動脈疾患などが発症していきます。卵巣機能が正常に機能していることは、女性の健康にとって非常に重要なのです。また、動物は飢餓状態に陥った時、生き抜くために、生命維持に関係ないものから犠牲にしていきます。女性の場合痩せる事で、何が最初に犠牲になるかというと、卵巣機能です。逆に言えば、卵巣機能が正常に維持され、規則正しい月経があるということは、体全体が健康であるとも言えるでしょう。

小児くる病の増加とビタミンD

  妊婦の栄養が必ずしも足りていない一例としてビタミンDを紹介します。「くる病」は、骨端線が閉鎖する前のビタミンD不足によって骨が曲がる病気です。医学の世界では過去の病気とも言われていましたが、驚くべき事に近年、小児くる病が出現し増加しています。
 ビタミンDは、骨とカルシウムに関係するビタミンという印象が強いと思いますが、そればかりではありません。ビタミンDは、糖代謝や免疫系の制御、細胞分化、心臓循環器系への作用、中枢神経系への作用など重要な働きをしています。ビタミンD不足に関係するとされている疾患には、うつや統合失調症、高血圧、冠動脈疾患、筋力低下、クローン病、リウマチ性関節炎、多発性硬化症、喘息、耐糖能の低下、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症など数多くあります。重要な栄養素である事を理解ください。
 妊婦や褥婦のビタミンDの血中濃度を調べました。すると、ほとんどの方がビタミンDの濃度が極端に少なく、ビタミンD欠乏症でした。このような状態で授乳しても、赤ちゃんに十分なビタミンDを与えてあげることはできません。くる病の出現は当然ともいえます。
 ビタミンDは日光に当たることによって皮膚で合成されます。現在の母子手帳には日光浴についての記載がなくなっていますが、短時間でも、赤ちゃんの日光浴を積極的に行っていただきたいと思います。また、UVカットの化粧品を使う女性が多いですが、それが本当に自分の健康に良いのかどうかを真剣に考える必要があると思います。また、ビタミンDを多く含む食べ物も積極的に摂っていただくことも重要です。

「小さく産んで大きく育てる」は良いことか?

 日本では、1970年代半ば頃から出生体重2500g未満の低出生体重児の頻度が高くなってきており、現在その割合は9.6%前後となっています【2022年現在は9.4%】。年間約100万人が生まれてくる中で、約10万人が低出生体重児ということです。
 世界で行われた様々な疫学研究の結果から、小さく生まれることによって、高血圧、心臓循環器疾患、耐糖能異常、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、脂質異常症、神経発達異常、慢性閉塞性肺疾患、初潮・閉経年齢の早期化、SGA性低身長、妊娠合併症などのリスクが高くなることが明らかになってきています。
 妊娠前のBMI及び妊娠中の体重増加と子どもの出生体重との関係を調べた研究では、妊娠前のBMIが出生体重に強く寄与しているという調査結果が出ています。妊娠中の体重増加も大事ですが、それ以上に、妊娠前の栄養状態が子どもの出生体重に大きな影響を及ぼすものだと言えます。つまり、日頃からの栄養やライフスタイルこそが、本人の健康と同時に、生まれてくる子どもの健康を大きく左右する要因であるのです。しかしリスクを持って生まれても育児により、それが予防できる可能性が明らかとなってきました。それもしっかり理解して育児に励んで戴きたいと思います。
 “ Will not eat, can not eat! ” という言葉があります。妊娠する前に痩せ願望、ダイエットにより望ましい食事習慣がなければ、妊娠中に十分食べようとしても食べられず、その実践は難しいのです。もちろん妊娠を契機にして栄養の重要性を考えていただくことは極めて大事です。また若い方々は妊娠前の食生活がいかに重要であるかを認識すべきと思います。


 本人だけではなく次世代の一生の健康を決定するという意味で、女性の健康は社会全体の最重要課題です。女性が健康である事こそが、社会全てが健康になるための礎と言えます。
 
▽講演のダイジェスト動画等は、以下をご覧ください↓

 

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