メールマガジン「Nutrition News」 Vol.233
健康・栄養に関する学術情報
「腸内環境が良くなるといいことありますか?」腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸と宿主エネルギー代謝機能

日常生活の中で腸のケアをする「腸活」が広がっています。腸に良いとされる食品を食べたり、運動や生活リズムといった習慣を改善したりと、実践している方も多いのではないでしょうか?では、腸内環境にどんな変化が起こるとどんな良いことがあるのでしょうか。

木村らのグループによる総説「腸内細菌由来短鎖脂肪酸における宿主エネルギー代謝機能制御」では、腸内環境の善玉役として腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸にフォーカスを当て、メタボリックシンドロームへの影響と作用機序を詳細に解説しています。そのいくつかを抜粋して紹介します。

①はじめに

ヒト腸管内腔には約1,000種類、100兆個以上の腸内細菌が安定なコミュニティを形成しており、この複雑な微生物群集を総称して腸内細菌叢と呼ぶ。ヒト腸内細菌叢は、主にファーミキューテス、バクテロイデテス、アクチノバクテリア、プロテオバクテリアの4つの門レベル、さらに属レベルでバクテロイデス型、プレボテラ型、ルミノコッカス型の3つのエンテロタイプに分類される。

短鎖脂肪酸は、食物繊維を基質とし腸内細菌の発酵によって生じる代表的な腸内細菌由来代謝物であり、宿主のエネルギー源として、さらにG蛋白共役受容体(G protein- coupled receptors; GPCRs)を介したシグナル伝達物質として作用し、宿主のエネルギー代謝調節に重要な役割を果たしている。

②腸内細菌と宿主エネルギー代謝機能制御

▼ゴードンらは、肥満マウスでは非肥満マウスと比較してファーミキューテス門に属する腸内細菌が多く、バクテロイデテス門に属する腸内細菌が少ないことを見出し、腸内細菌が肥満症や糖尿病の病態に直接的に影響することを実証した。

▼ヨーロッパと中国における2型糖尿病患者で、全ての2型糖尿病患者の腸内細菌叢において、酪酸産生クロストリジウム属の割合が低く、一方で、非酪酸産生クロストリジウム属の割合が高いことが明らかになっている。

▼日本でも2型糖尿病患者と健常者を比較した場合では、腸内細菌の総菌数は同程度であったのに対し、ファーミキューテス門に属するクロストリジウム・コッコイデス グループ、クロストリジウム・レプタム グループ、ラクトバチルス属などの有意な増加とプレボテラ属の有意な減少、さらには糞便中における短鎖脂肪酸濃度の低下が見受けられている。

③短鎖脂肪酸と宿主エネルギー代謝機能制御

▼短鎖脂肪酸とは、酢酸・プロピオン酸・n-酪酸・イソ酪酸・イソ吉草酸などから成る。

▼摂取した食物繊維を基質として腸内細菌の発酵により生じる短鎖脂肪酸が、生体内での定常的な供給源である。

▼腸内細菌のうち一部のクロストリジウム属やブチリビブリオ属がn-酪酸を、アセトバクター属やグルコノバクター属が酢酸を産生するなど、短鎖脂肪酸を産生する特定の菌株が同定されている。

▼腸内細菌によって産生された短鎖脂肪酸の95%以上が生体内に吸収される。

▼大腸にて産生された短鎖脂肪酸は、大腸上皮細胞のエネルギー源として、上皮細胞の増殖や粘液の分泌、あるいは水やミネラルの吸収に関与するとともに、肝臓などの末梢組織において脂肪合成の基質になる。

▼筆者らは、短鎖脂肪酸受容体 GPR41 GPR43 が 食と腸内細菌、そして宿主のエネルギー代謝恒常性を制御する重要な因子であることを明らかにした。

<GPR41を介した働き>

GPR41は主に腸管と交感神経節に高発現している。

・腸管でも特に、内分泌細胞のL細胞に発現し、腸管ホルモンの一種である食欲抑制ホルモンペプチドYYpeptide YY; PYY)と共発現している。

・無菌マウスと通常マウスの血中PYY濃度は、無菌マウスで低い。

○これらのことから、短鎖脂肪酸が腸内細菌に依存しており、PYYの分泌に関与することで摂食量を調節し、エネルギー代謝を制御することが示された。

○交感神経節における検討で、Gpr41遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較して、心拍数や熱産生などの交感神経系の機能障害を伴い、エネルギー消費量が減少した。著者らの検討による。

<GPR43を介した働き>

GPR43は腸管、脂肪組織および免疫系組織に高発現している。

・短鎖脂肪酸刺激によるグルカゴン様ペプチド-1glucagon like peptide-1; GLP-1)分泌を促進する。

Gpr43遺伝子欠損マウスではGLP-1分泌促進作用が消失し、インスリン分泌の低下とインスリン抵抗性を示した。

○これらのことから、短鎖脂肪酸刺激によるGPR43GLP-1分泌の促進は、インスリン感受性の亢進を伴うエネルギー恒常性維持に寄与すると考えられる。

○短鎖脂肪酸によるPYYGLP-1などの腸管ホルモン分泌は、ヒトにおいても確認されている。

○肥満者において、プロピオン酸投与によるPYYGLP-1の分泌促進、体重や脂肪重量増加の有意な抑制が報告されている。

④短鎖脂肪酸の多面的な生理作用

今回は、本総説中のエネルギー代謝に焦点を当てて紹介しましたが、併せて短鎖脂肪酸の多面的な生理作用も示されています。

・短鎖脂肪酸の生理作用として、代謝機能制御のみならず免疫調節機能にも注目が集まっている。

・近年の研究から興味深いことに、短鎖脂肪酸は生体内において遺伝子にエピジェネティックな変化を引き起こすことが報告されている。

 

 

腸は物静かです。でも高度で大切な仕事をしていますね。そんな腸にも耳を傾けてあげたいものです。腸に良い生きた菌(プロバイオティクス)や食物繊維(プレバイオティクス)を食べてケアをしてあげると、メタボリックシンドローム対策にもなりそうです。大便の特有のにおいは短鎖脂肪酸のもので、大量に作られて腸で吸収され活躍し、僅かな残りがトイレで香ります。ありがとうと感謝を込めて水に流したいですね。

 

参考

詳細は下記論文をご参照下さい。

清水秀憲, 北野(大植)隆司, 木村郁夫. 腸内細菌由来短鎖脂肪酸における宿主エネルギー代謝機能制御. Glycative Stress Research (日本語翻訳版) 2019; 6 (3): 181-191. doi:10.24659/gsr.6.3_181

本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。

http://www.toukastress.jp/webj/article/2019/GS19-17j.pdf

 

ダノンジャパン株式会社 研究開発部 

シニアマネージャー 西田 聡

 

 

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