メールマガジン「Nutrition News」 Vol.230
健康・栄養に関する学術情報
乳酸菌を主とする機能性表示食品について

昨今、改めて話題になっている機能性食品として乳酸菌があります。
そこで今回は、乳酸菌を中心とした「プロバイオティクス」、「プレバイオティクス」および「シンバイオティクス」の機能性について取り上げてみました。

北海道大学 名誉教授  冨田 房男 

プロバイオティクス (Probiotics)

プロバイオティクスは、一般的に腸内菌叢を改善または復元することによって、それらが消費されたときに健康上の利点を提供するという主張で推進されている生きた微生物である。

最初に発見されたプロバイオティクスは、ラクトバチルス・ブルガリクスと呼ばれるブルガリアヨーグルト中の乳酸菌の特定の株であった。ブルガリアの医師と微生物学者Stamen Grigorovによって1905年に発見された。

現代では、ロシアのノーベル賞受賞者Elie Metchinikoffが、1907年頃にヨーグルトを摂取するブルガリアの農民は長生きするとした説が一般的である。

プロバイオティクス製品は、日本やヨーロッパで長年にわたり広く使用されてきた。

プロバイオティクスは現在、米国でも重要な食品サプリメントのカテゴリーとして台頭してきている。プロバイオティクスの生物学的性質、入手可能な製品、主張される健康効果、安全性および規制に関する疑問は、消費者と栄養専門家の双方にとって重要である。プロバイオティクスは、従来の栄養機能以上の健康効果をもたらすことから、機能性食品とみなすことができる。実際、国の審査を受けた特定保健用食品や、消費者庁への機能性表示食品の申請を見ても多数のものが現在販売されている。そのほとんどは、主にラクトバチルス属とビフィドバクテリウム属に属する乳酸菌を含んでいる。

例えば、 Lactobacillus acidophilus L-92、L. brevis KB290、L. reuteri Prodentis (Lactobacillus reuteri DSM 17938 株、Lactobacillus reuteri ATCC PTA 5289 株)、L. paracasei KW3110、Lactococcus lactis subsp. cremoris FC、Enterococcus faecalis KH2 株、Bifidobacterium lactis BE80株がある。プロバイオティクスの有益な効果として、腸内細菌叢の正常化、腸内の潜在的な病原体の侵入を阻止する能力、いくつかのタイプの下痢の予防的または治療的治療、過敏性腸症候群および炎症性腸疾患の症状の緩和、乳糖不耐性の改善、大腸がんの予防、免疫機能の調節、ヘリコバクター・ピロリの阻害、カルシウムの吸収促進および血中コレステロール値の低下の可能性が示唆されている。またそれらの効果のメカニズムが提案されている。

プロバイオティクスは病原性が知られておらず、有益な食品サプリメントとして普及させることができる。現在、プロバイオティクスに関する疾病予防や治療に関する表示は、法律上認められていない。しかし、事業者の責任で、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届けられた食品が機能性表示食品である。 機能性表示食品では「おなかの調子を整えます」、「脂肪の吸収をおだやかにします」、「健康の維持及び増進に役立つ」、「食後の血糖値上昇を抑える」などの機能性を表示することができる。

プレバイオティクス (Prebiotics)

プレバイオティクス(Prebiotics)は、細菌や真菌などの有益な微生物の成長または活性を誘導する食品中の化合物である。つまり、プレバイオティクスは腸内菌叢の生物組成を変化させることができるものである。食餌性プレバイオティクスは、典型的には、消化管の上部を消化されずに通過し、結腸内の有用な細菌の基質として作用することにより、その成長または活性を刺激する難消化性繊維化合物である。これらは1995年にMarcel Roberfroidによって初めて特定され名付けられた。

これらの中には、機能性表示食品としてマーケティング目的の健康強調表示のために食品添加物として消費者庁に届け出ているものが多数ある。食品製造に使用される一般的なプレバイオティクスには、オーツ麦由来のβグルカンやチコリ根由来のイヌリンが含まれる。ここで、我々の見つけたプレバイオティクス、DFAⅢについて少し紹介する。

DFAⅢ(difructose anhydride Ⅲ)は、2つのフラクト-スからなるオリゴ糖でalpha-D-fructofuranose-β-D-fructofuranose 2’,1:2,3’-dianhydrideで、砂糖の約半分の甘さのある2糖である。我々は、Arthrobacer sp.H65-7が生産するイヌラーゼを用いてイヌリンからDFAⅢを生産する方法で、1989年に最初のDFAⅢの大量生産に成功した1)。 DFAⅢの収率はイヌリン含量で100%であり、経済的な工業生産が可能となった。現在、日本甜菜製糖株式会社がDFAⅢを商業生産している。

DFAIIIはBifidobacterium属の細菌では同化されず、Ruminococcus属の細菌にのみ同化されることが明らかになった。Ruminococcus productusは短鎖脂肪酸の産生と同時にDFAIIIを同化し、糞便pHを低下させることがわかった。ラット腸管の酸性化は二次胆汁酸の産生を阻害し、二次胆汁酸と一次胆汁酸の比率を低下させる。したがって、DFA IIIは大腸がんを予防し、新たなプレバイオティクス候補となる可能性がある2)。 盲腸内のクロストリジウム菌数は、対照食と比較してDFA III食で3ログユニット増加した。しかし、この変化は統計的に有意ではなかった。DFAIIIはイヌリンやフラクトオリゴ糖(FOS)と比較して盲腸内の細菌叢に異なる影響を与え、これらの違いはDFAIIIのα(3′-2′)結合によるものと考えられる。 DFAIIIの摂取は、コール酸補給後の二次胆汁酸脱共役および7α-デヒドロキシル化の部分的阻害を介してプレバイオティクスとして糞便中のデオキシコール酸濃度を低下させた3)DFAIIIは、肥満や過剰なエネルギー摂取の条件下で 腸肝循環中の12α-ヒドロキシル化二次胆汁酸を減少させるプレバイオティクスであり、高濃度下でのデオキシコール酸産生を抑制する4)

DFAIIIをヒトに低用量で投与したところ、カルシウムの吸収を促進することが確認された4)。健康な男性被験者12名に、炭酸カルシウムとして貝殻粉末250 mg(カルシウム100 mgに相当)を13回、DFAIII 1.0 gを添加または無添加で13日間投与し、最後の4日間をバランス期間とした。バランス期間として最後の4日間は,全尿および糞便を採取し、カルシウム排泄量を評価した。DFAIII投与群は対照群に比べ、見かけのカルシウム吸収量(mg/d)および吸収率(%)が高く、また保持率も非常に高いことが確認された。さらに、実験期間終了後、血清オステオカルシンはDFAIII投与群で増加したが、対照群では増加しなかった。これらの結果から、DFAIIIの摂取は腸管カルシウムの吸収を高め、骨代謝に有益であることが示唆された5)

DFAIIIの摂取により、胃切除による鉄の吸収不良が回復し、鉄欠乏性貧血が完全に防止された。低濃度のFOSの添加では胃切除後の貧血は改善されなかったが、DFAIIIの腸内発酵がこれらの胃切除による欠乏症の改善に寄与したと考えられる6) DFAIIIによる鉄吸収量の増加は、主要な鉄輸送体である二価金属輸送体-1DMT-1mRNAの発現が維持されることにより、盲腸粘膜が拡張して鉄吸収能が増加したためと推定される7)

鉄欠乏性貧血のベトナム人女性を対象に、DFAIIIと水不溶性鉄の併用療法の有効性を検討した。中等度貧血の女性168名を対象とした検討では、DFAIIIは鉄欠乏症の予防に有効であることが示された8)

また、DFAIIIは家畜にも応用が可能であり、「乳牛におけるカルシウムの吸収促進」にも使えるとのことである。つまり、乳牛の泌乳後期から DFAIII を給与し、乾乳期後期の飼料中のカチオンアニオン差(DCAD)値を調整することにより、利用可能なカルシウム 量が増加し、分娩当日の血中カルシウム濃度の低下が緩和される。したがって、泌乳後期および分娩直後の乳牛の飼料にDFAIIIを添加することにより、泌乳・妊娠の段階に応じた骨、乳、胎児へのカルシウムの供給が促進されることが期待される。特に泌乳後期における DFAIII の給与は骨密度の増加や分娩回数増加に伴う骨密度の減少を抑制する可能性があり、乳牛の長寿命連続生産に寄与する新しい飼養技術として期待されている9)

以上のようにDFAIIIは、 Ruminococcus productusの増殖を助けるとともにさまざまのミネラルの吸収にも関与することが判明し、両者の組み合わせは、次に述べるシンバイオティクスの一例と言ってよいだろう 。

シンバイオティクス (Symbiotics)

シンバイオティクスはプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものである。本概念は1995年にGibson らにより提唱された。プロバイオティクスが生菌として、腸内菌叢バランスの改善などの作用により宿主動物に有益に働き、プレバイオティクスは腸内有用菌の増殖を促進したり、有害菌の増殖を抑制することにより宿主に有益に作用を有するが、この2つを組み合わせることにより、双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利に働くことを目指している。これらもまた消費者庁への機能性表示食品としての届け出が多数出されている。例えば、「難消化性デキストリン(食物繊維)と生きて腸まで届く有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans SANK70258)とフラクトオリゴ糖が含まれ、腸内フローラにおけるビフィズス菌(善玉菌)率を増やし、腸内環境を改善するとともに、お通じを改善する機能があるもの」や「Pne-12乳酸菌(Lb. plantarum PIC-NBN22)とフラクトオリゴ糖が含まれ、Pne-12乳酸菌とフラクトオリゴ糖には、BMIが高めの方の体脂肪を減らす機能」があるなどがみられる。

これからの展望

乳酸菌の研究に始まった機能性食品の研究から食と腸内菌叢の研究へと進んできた。また更に食の機能性、特に超高齢社会に到達した中での「食習慣と健康」、「脳機能の維持、活性化」、「加齢に伴う運動機能障害」ついての意識の高まりを考えると、食の科学的解明=食の機能性にかかわる研究、またさらに食の機能性(機能性食品について)の科学的データーの集積と解析を行うことが必須であろう。とくに「腸管での有用微生物との共存・共栄」と「食」との関係に、「加齢に伴う変化」を加えて、科学的にみる研究が必要と考えている。また、食の機能性については、人のみならず動物(乳牛)にもかかわりがあることがDFAIIIついて明らかになったので、これからは、「家畜の健康と食」についても機能性の追求が必要となるであろう。

 

 


一般参考文献

プロバイオティクスとプレバイオティクス

Ed. Gerald W. Tannock, Probiotics and Prebiotics Where are we going?

Caister Academic Press, Wymondham, U.K., 2002 ISBN: 0-9542464-1-1

機能性表示食品 

機能性表示食品の届出情報検索 | 消費者庁 (caa.go.jp)

参考文献

1)  T. Hirayama et al., Production of difructose anhydride III (DFAIII) by Arthrobacter    sp. H65-7, Abstracts of the Japan Society of Fermentation Engineering, p.234,1989

2)  N. Matsukawa et al., Nondigestible saccharides suppress the bacterial degradation of quercetin aglycone in the large intestine and enhance the bioavailability of quercetin glucoside in rats, J. Agric. Food Chem., 57 (20), 9462-9468, 2009

3)  N. Matsukawa et al., Oligosaccharide promotes bioavailability of a water-soluble    flavonoid glycoside, alphaG-rutin, in rats, J. Agric. Food Chem., 57 (4), 1498-1505, 2009

4)  H. Hara et al., Difructose anhydride III promotes iron absorption in the rat large intestine Nutrition, 26 (1),120-127, 2010

5)  K. Minamida et al., Effects of difructose anhydride 3 (DFA 3) administration on bile acids and growth of DFA 3-assimilating bacterium Ruminococcus productus on rat intestine J. Biosc. Bioeng., 99 (6), 548-554, 2005

6)  K. Shiga et al., Ingestion of difructose anhydmritation de III, a non-digestible disaccharide, prevents gastrectomy-induced iron malabsorption and anemia in rats Nutrition, 22 (7-8), 786-793, 2006

7)  H. Hara et al., Difructose anhydride III promotes iron absorption in the rat large intestine Nutrition, 26 (1), 120-127, 2010

8)  M. Nakamori et al., Difructose anhydride 3 enhances bioavailability of water-insoluble iron in anemic Vietnamese women, J. Nutritional Sci. Vitaminol., 56 (3), 191-197, 2010

9)  A. Maetani, Effect of dietary difructose anhydride III supplementation on bone mineral density and calcium metabolism in late-lactation dairy cows, Ph.D. thesis (Gifu University), 2021

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