メールマガジン「Nutrition News」 Vol.225
健康・栄養に関する学術情報
いつ食べるのが良いですか?時間栄養学の視点から【後編】

 

前号に続いて金および柴田による総説「時間栄養学」をお伝えします。

前編で食べるタイミングが脂質代謝や血糖値の変化に大きく影響し、朝食の欠食は健康上のリスクを高めることを解説しました。後編ではスポーツパフォーマンス・腸内細菌への影響を紹介します。最近は食べるタイミングとスポーツパフォーマンスの話題を多く耳にするようになり、関心の高さを感じます。また、「腸活」も盛り上がりを見せています。時間栄養学の視点からはどの様に見えるのでしょうか?

①スポーツパフォーマンス

アスリートの競技パフォーマンス向上のためには、正しいトレーニング、休養、そして食事(栄養)が重要である。これらの中でもスポーツパフォーマンスのための食事(栄養)の役割については、近年非常に注目を浴びており、アスリートの栄養要件の理解には大きな進歩があったと考えられる。一方で、時間栄養学に関する関心が高まる中、アスリートの「いつ摂取するか」 についての議論の必要性も指摘されている。

これまでのアスリートのための栄養素の摂取タイミング「いつ摂取するか」に関する議論は、運動前、運動中、運動後が中心となっている。タンパク質の十分な摂取は、骨格筋量の増加やパフォーマンスの向上のためにどのアスリートにとっても重要である。

▼摂取タイミングおよび投与量も重要である。

  • 運動後タンパク質を摂取すると筋タンパク質合成は活性化され、少なくとも24時間続く。
  • 運動後02時間において必須アミノ酸0.250.3g/kg/体重を摂取することは、タンパク質合成経路を刺激する。

    ▼タンパク質の摂取パターンは、筋タンパク質の合成、筋量や筋力などの身体機能に関連している。筋タンパクの合成、筋分解に関わる筋機能関連遺伝子は概日リズムを有することが知られている。
  • 夕食に多くのタンパク質を摂取する群と、1日の総摂取量は同じであるが、朝食、昼食、夕食と等しくタンパク質を摂取する群を比較した場合、筋タンパク質合成率は等しく摂取した方が高い。
  • 筆者らは、アスリートではない65歳以上の高齢者を対象とし、タンパク質の摂取パターンの違いが骨格筋量および筋力に及ぼす影響について検討を行った。夕食に比べて朝食のタンパク質の摂取量が多い朝群において、その逆の夕群に比べて骨格筋量指数の高い値が示されている。また、朝のタンパク質の摂取量と骨格筋量指数において正の相関が示されている。握力においては両群間で大きな違いは見られなかったが、夕群に比べて朝群で高い値が見られた。

②腸内細菌

  • ▼我々の腸内には100兆もの腸内細菌が存在し、その集合を腸内細菌叢と呼んでいる。腸内細菌には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよみり)が存在し、そのバランスを保つことが健康にとって重要である。

  • ▼腸内細菌叢は食事(栄養)や運動などの刺激によって変動する。これらの要因の中で良い腸内環境を維持するためには、特に食物繊維の摂取が重要である。

  • ▼腸内細菌叢は日内変動を有することが示されている。

  • ▼筆者らは、マウスを用いてヒトの食生活を模した食モデルを作製し、食物繊維であるイヌリンの効果を検討した。マウスの活動期の前期を「朝食」、後期を「夕食」と定義した。まず、それぞれの時間帯に高脂肪食を与える群(高脂肪食群)と高脂肪食にイヌリンを添加した餌を与える群(イヌリン群)に群分けを行った。

14日間飼育した後、朝食と夕食ともイヌリン摂取により盲腸内pH の低下、短鎖脂肪酸量の増加が見られたが、その変動は朝食で夕食より大きいことが示された。腸内細菌叢においては、朝のイヌリン摂取においてのみ有意な変動が観察された。

  • ▼さらに、筆者らは65歳以上の高齢者を対象とし、朝食前または夕食前にイヌリンを含む菊芋パウダー(5 g)を摂取してもらい、その後の血糖値変動および腸内細菌叢への影響を検討した。
  • 朝食前または夕食前の菊芋パウダー摂取による24時間の血糖値変動を比較した結果、朝と夕とも摂取期間において摂取前と比べて24時間の血糖値の減少が見られ、特に朝食前の摂取においてより顕著な減少が見られた。さらに、朝食前の菊芋パウダー摂取は夕食前の摂取に比較して腸内細菌叢の変化が大きいことが観察された。

 

筆者は「既存の食事(栄養)に時間(タイミング)の視点を取り入れることで食事(栄養)のより有効な摂取タイミング、または新しいアプローチ方法の開発が期待できるだろう。」と結んでいます。

「いつ食べるのが良いですか?」という疑問に、時間栄養学は「朝・昼・夕万遍なく、朝食は欠かさずに。」とクリアに答えてくれました。普段の暮しの中で「これなら出来るよ。」と、ハードルが下がれば嬉しいです。


当財団が開催している第15回ダノン健康栄養フォーラム(2013年)で、本総説の著者である柴田重信教授による「時間栄養学」という演題がありました。その要旨も併せてご覧ください。

 


参考

詳細は下記論文をご参照下さい。
金 鉉基,柴田 重信. 時間栄養学. 体力科学 2020; 69 (5) : 401-411. DOI10.7600/jspfsm.69.401

本論文はオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/69/5/69_401/_pdf/-char/ja

 

 

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