メールマガジン「Nutrition News」 Vol.140
2014年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
ヒトiPS細胞膵臓分化誘導系を用いた生活習慣病胎児期発症説(Barker説)の検証
熊本大学発生医学研究所多能性幹細胞分野
現勤務先:東京工業大学 生命理工学院  

白木 伸明 先生
 世界中で高血圧、高脂血症、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病が著しく増加しています。生活習慣病は、遺伝素因と環境因子(生活習慣)の二つが発症に関わっていると考えられますが、さらに母親の胎内環境が生活習慣病の発症に深く関与することも明らかになってきました。この生活習慣病胎児期発症説(Barker説)に関しては、疫学、動物実験、分子レベル等多方面にわたって積極的に研究が行われており、膵臓に関してはラットやマウスを用いた実験で、胎児期の低栄養により出生後の膵臓β細胞の数が減少することが報告されています。しかし、ヒトにおける検証は非常に困難です。本研究では、ヒトの発生過程を模倣するヒトiPS細胞の膵臓分化誘導系をモデルとして生活習慣病胎児期発症説を検証することを目的としました。
 

要旨

 我々は既に未分化ヒトES/iPS細胞において必須アミノ酸の一つであるメチオニンが生存・未分化性維持に重要な役割をしていることを見出しており、膵臓分化段階においてもメチオニンを含めた必須アミノ酸が発生・分化で重要な役割を担っていることが予想された。具体的には、我々が構築済みであるヒトiPS細胞の膵臓分化誘導系を用いて、各分化段階において必須アミノ酸を一つずつ除去した培地による培養を行った。処理後の細胞を回収して解析を行い単一のアミノ酸が発生分化に与える影響を評価した。
 1年間の研究により、ヒトiPS細胞から機能的な膵臓細胞を作成することが可能な新規の膵臓分化誘導系を構築することに成功した。また、未分化過程における必須アミノ酸のうちメチオニン除去により、その後の内胚葉および膵臓β細胞への分化促進作用が確認できた。この結果は、胎生期における栄養状態がその後の膵臓分化に影響を与えるという動物実験の結果を支持するものであり、今後はこのメカニズムの解明を行っていく予定である。 

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