メールマガジン「Nutrition News」 Vol.132
第17回ダノン健康栄養フォーラムより
科学的エビデンスに基づいた食品の機能表示
大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学
教授 森下竜一 先生
  機能性食品表示制度は、アベノミクスの「三本の矢」における「民間投資を喚起する成長政略」の1つとして2015年4月よりスタートした制度です。従来は、医薬品や保健機能食品(栄養機能食品、特定保健用食品)以外のいわゆる健康食品に、効果のような文言を表示することは禁止されていました。しかし、これらの中には、科学的な研究が進められてきたものも多く含まれます。それらについて、企業等の責任で健康増進に関する表示を解禁するというものです。
  この背景には、少子高齢化による人口減少と医療費の増大があります。特に、生活習慣病にかかる医療費の増加は財政的にも負担が大きく、公的保険以外のサービスを活用した予防・健康管理にシフトさせることが検討されました。そこで出てきたキーワードが「セルフメディケーション」です。機能性表示の解禁は、自らの健康を自らで守ることを推進することで国民の健康増進を行い、「医療費の削減」と「新産業の創出」を同時に実現でき、さらに医・農商工連携によって、地域の「経済活性化と医療費削減」につながると考えています。
 
  機能性表示食品制度と保健機能食品制度との最も大きな違いは、保健機能食品制度では消費者庁の許可が必要なのに対し、機能性表示食品制度は消費者庁への届出制であること、そして、事業者の責任で表示が可能であるということです。表示内容の根拠としては、ヒトでの臨床試験か研究レビューが必須とされています。届出された機能性表示に関わる資料は、ホームページ上に公開されるため、消費者はいつでもそれを確認することができます。
 機能性表示食品の関与成分は非常に幅広く、ラクトフェリン、ローズヒップ由来ティリロサイド、グルコサミンなど、特定保健用食品にはなかったような成分が多く含まれているのも特徴の1つです。
  機能性表示食品は、あくまで健康増進のためのものであり、病気の方がとるものではないことを示すため、パッケージには「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」「本品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません」と記載しなければいけないことになっています。
 可能な機能性表示の範囲のポイントは「健康の維持及び増進に役立つ、又は適する」ということです。疾病リスク低減表示を除き、特定保健用食品で認められている範囲内の表現は可能とされていますが、「診断」「予防」「治療」「処置」など医学的な表現は使用できませんし、「糖尿病の人に」など疾病の予防・治療効果を暗示する表現も認められていません。健康増進の範囲を超えた「肉体改造」「増毛」「美白」などの表現もできません。また、例えばある成分について、免疫系の細胞が増加することが実証されていたとしても、それによってどのような健康増進に役立つのかまで論文になっていなければ、その機能性を表示することはできません。
  なお、機能性表示食品制度は、農作物やその加工食品にも機能性を表示できる制度設計となっています。これは、世界でも日本が初めてのことです。例えば、β-クリプトキサンチンを多く含む温州みかんに「骨の健康を保つ食品です。更年期以降の女性の方に適しています」というような表示を、メチル化カテキンを含むべにふうき緑茶に「ハウスダストが気になる方の目や鼻の調子を整えます」というような表示をすることができるでしょう。生鮮食品では、産地や収穫時期によって成分含有量にバラつきが出ることを考慮する必要がありますが、既にいくつかの商品が受理されています。
 
  機能性表示食品制度は、消費者にとっては、商品を購入する際の参考になるというメリットがあります。実際、メーカーに寄せられる消費者からの問い合わせも、従来は「含まれる成分がどのような役に立つのか」というものが多かったのに対し、制度導入後は「どういう臨床試験に基づいているのか」「どのくらいの期間食べたら良いのか」「どの程度の効果があるのか」などの詳細な質問が増えているという話も聞いています。このようなことからも、消費者の商品購入の行動が変化し始めていると言えるでしょう。また、機能性表示食品制度では、製造や品質についてもホームページ上で確認することができるため、従来の商品よりも安全・安心が増していると考えられることからも、この制度によって、より確かなものを消費者に届ける体制ができるのではないかと思っています。
  産業界側にもメリットがあります。機能性表示食品制度では、特定保健用食品に比べてかかる期間も短く、費用も少ないため、中小企業にも参入のチャンスがあります。また、これまでの制度下では、企業は、ある成分についてヒトでのデータを出しても、それを表示することができませんでした。そのため「お金をかけて研究するより、広告を打つ」という傾向も多く見受けられました。機能性表示食品制度では、企業が得た科学的根拠を活用することができるため、機能性研究がさらに発展するなど、サイエンスの面でも貢献するものとなることが考えられます。
 
 機能性表示食品は、2015年9月18日現在、92品目の届け出が受理されています。制度が十分に理解されていないところがあることや、届出に関するやりとりに時間がかかっているなどの問題点もありますが、今後、皆さまの身近でも、もっと多くの商品を見ることができるようになるのではないかと思います。
 皆さまには、ぜひ、機能性表示食品制度をご理解いただき、「食育」という観点でも役立てていただきたいと考えています。「その食品に含まれるどういう成分が、どういう役割をしているから良いのか」というところまで踏み込んで伝えていくことで、健康への関心が増すと思いますし、それによって、より国民の健康増進につながっていくことを期待しています。
  • ごはんだもん!げんきだもん!~早寝・早起き・朝ごはん~
  • ダノングループ・コーポレートサイト

ページトップへ戻る