メールマガジン「Nutrition News」 Vol.127
2013年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
栄養環境の感知に関与する膜受容体BOSSによるエネルギーホメオスタシス維持の分子機構の解明
独立行政法人理化学研究室 脳科学総合研究センター神経膜機能研究チーム  

香山 綾子 先生
  世エネルギー恒常性維持は生命にとって非常に重要であり、その破綻は発育不全や様々な代謝疾患の原因になります。生物は、体内に貯蔵している栄養状態を感知することで、摂食行動やエネルギー消費と貯蔵のバランスを制御して、体内のエネルギーホメオスタシスを保っています。これまでに我々は、ショウジョウバエを用いた研究で、オーファン受容体GPCRに属するBOSSが、細胞外グルコース濃度の感知に関与する栄養センサーであることを報告してきました。 BOSS欠損変異体は,体サイズが小さく、飢餓ストレスに脆弱であり、過食になるにも関わらず太らないという表現系を示します。また、BOSSは、脂肪体(哺乳類の脂肪組織に相当)、摂食行動制御に関わる感覚神経(味覚や嗅覚神経)や腸内分泌細胞に発現していることから、BOSSは体内の栄養環境や餌の栄養素を感知し、エネルギー恒常性維持に関与することが強く示唆されますが、その作用機序の詳細な機構は明らかとなっていません。
  本申請研究では、BOSSがどのような分子メカニズムによって、体内の栄養状態を感知し、摂食行動と個体のエネルギー恒常性を調節しているのかを明らかにすることを目的し、腸におけるBOSSの機能解明に焦点をあて解析を行いました。
 

要旨

  本研究では、モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いて、オーファン受容体GPCRに属するBOSSの腸における機能に焦点をあて解析を行った。摂食された栄養素は腸で消化吸収され、利用されると共に、空腹期に向けての栄養素の貯蔵が行われる。つまり、腸は単に食事の消化吸収の機能を担う組織ではなく、個体のエネルギー調節や栄養の摂取等のエネルギー恒常性維持を制御する司令塔の役割を担う組織である。BOSS欠損変異体は、過食になるにもかかわらずやせているという表現型を示す。何故、摂食量が増加しているのに肥満にならないのだろうか?この原因を特定するために、まず、腸特異的BOSSノックダウン系統を作製した。この個体では摂食量と貯蔵脂肪量の減少が認められ、腸に発現しているBOSSが摂食行動や貯蔵脂肪量制御に関与している事が示唆された。BOSS欠損変異体の脂質消化•吸収能力を検討したところ、腸のリパーゼ活性が落ちていることが判明した。さらにBOSS欠損変異体においては、酸化ストレス適応能力の低下が認められ、老化が進行していることが示唆された。これらの結果から、BOSSは、腸を通過する食物の消化•吸収機能と個体レベルでの摂食行動制御という2つの重要な機能を制御している可能性が考えられ、今後の展開により、エネルギー恒常性維持機構について新たな知見が得られる事が期待される。

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