2018/11/15

Vol.174 (2) 第20回ダノン健康栄養フォーラムより 「成長期アスリートの食生活 ~実例紹介と課題についての一考察~」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.174
第20回ダノン健康栄養フォーラムより
成長期アスリートの食生活 ~実例紹介と課題についての一考察~
立命館大学 スポーツ健康科学部 教授/管理栄養士/公認スポーツ栄養士 
 海老 久美子 先生

 女性アスリートの健康問題として主に挙げられるLow Energy AvailabilityLEA(利用可能なエネルギー不足)、無月経、骨粗しょう症の3つを「Female Athlete TriadFAT(女性アスリートの三主徴)」と呼んでいます。FATの各要素は単独或いは相互に関連しあって女性アスリートの健康やパフォーマンスに影響を与えますが、中でも根底にあるのがLEAです。ジュニアアスリートでは、成長のために使われるエネルギー量が非常に大きいため、利用可能なエネルギーがどの程度あるかを見極める必要があります。一般に審美系、体重階級制、持久系スポーツでは競技力向上のため、過度なトレーニングに加えて痩身体型を求めることからLEAの状態になる選手が多く、FATの発症率が高くなると言われています。

 一方で、2014年にIOCが示した「スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)」には、FAT以外にもエネルギー不足から起こる様々な問題点が示されています。LEAは女性アスリートだけの問題ではなく、男性を含む全てのアスリートに起こり得るということです。そこで本日は、2つの事例から、エネルギー不足が運動する子どもにどのような影響を及ぼす可能性があるのかについて考えていきたいと思います。

事例① 女子陸上競技選手への取り組み

 トップレベルの大学生女子長距離選手の現状として、大学入学後にスポーツ障害に苦しんだり、そこから伸び悩む選手が多いことが挙げられます。また、高校女子長距離選手において、基準値に対するエネルギー摂取量の割合が非常に低いことも先行研究で示されています。そこで私たちは、高校の時の彼女たちの食事日記を元に、食事内容から分析を行いました。その結果、高校時代にLEAの状態にある選手すべてが月経異常であったことから、慢性的なエネルギー不足状態によるホルモンバランスの乱れが月経機能に影響を及ぼしていた可能性が示唆されました。また、疲労骨折の既往歴、高校時代のLEA、月経異常の3つを伴うことで、大学入学後に疲労骨折を受傷しない可能性が50%減少することが確認されたことから、大学入学後の疲労骨折の受傷には既往歴のほかに慢性的なエネルギー不足状態や月経異常によるホルモンバランスの乱れが大きく影響している可能性が示唆されました。これらのことが全ての女子陸上選手に言えることとは限りません。しかし、私たちの調査では、高校時代に既にLEAの状態にいる選手が多く、また、FATの要素を2つ以上持っている選手が多く見られたことから考えると、その予防には、更に前の段階である中学生期或いは小学校の高学年期に、エネルギーバランスや炭水化物に焦点をあてたアプローチを行うことが必要だと言えるのではないでしょうか。

事例② 地域のジュニアアスリート指導者との取り組み

 指導者を対象に、故障と栄養の取り組みについてアンケートを行ったところ、故障・障害の発生数で最も多かったのは、骨に対する障害でした。特に、疲労骨折の事例では、5件中4件が試合期に発生していましたが、中には「試合の前から違和感があった」「練習中に疲労がたまっていた」などのケースも見られました。栄養面で気をつけたことについては、5件中4件が「特に何もしなかった」と回答しました。疲労骨折は、スポーツ活動において軽微な外力が繰り返し作用することによって骨の分解と形成のバランスがくずれ、分解が優位になり発症すると言われています。その要因は多数あり、分かっていない部分も多いようですが、その中で明らかになっているのは、疲労骨折の発症年齢が14歳から16歳に非常に特化しているということです。骨が未熟な時期の過度な運動が要因となるのではないかと考えられます。なお、成長期においては腰椎の疲労骨折が多く見られます。指導者向けの講習会で、腰痛がある場合には経過観察をせずにCTMRI等の検査を受けることを勧めたところ、後日、ある野球部の先生から腰痛を訴えていた選手6人中3人が疲労骨折だったと聞きました。同様のケースは、他にもあるのではないかと憂慮しています。疲労骨折発症は男子より女子の方が起こりやすいことが分かっていますが、リスク要因である低BMI、疲労骨折歴、エネルギー不足等は決して女子だけのものではないことを考えると、男子のスポーツ選手に対しても早期からの教育や介入が必要でしょう。

 疲労骨折の予防のためには、まずはエネルギーを不足させないことが大切です。成長曲線に応じた体重増加や身長のピークが見られない場合には、将来の骨粗しょう症のリスクを含め、骨の成長に対して何らかの問題が起こっていることが考えられます。また、カルシウム、ビタミンD、たんぱく質を十分に摂取するとともに、休養もしっかり取り、疑わしい場合には安易に経過観察をせずに早期発見、早期治療に努めることが大切です。

子どもにとって「食」とは?

 子どもにとって「食」とは、栄養素を摂取することだけではありません。ジュニア球児を指導している先生から聞いた話では、「食トレ」の名のもとに、お米を中心とした無理な食事の強制が行われている例があるそうです。食べないと練習に出られないため、朝食を抜いて来る選手、隠れてどう処分するかを考える選手、なんとか食べたものの消化不良を起こす選手、さらにはそれがトラウマになり、高校入学後も炊き立てのご飯が出るとえづいてしまって喉を通らなかった選手もいたということです。スポーツは人生を豊かにします。そして、スポーツは「食」も豊かにする存在であってほしいと思います。そのために、管理栄養士・栄養士である私たちにできることが、まだたくさんあるはずです。スポーツをする子どもたちの「食」をもっと豊かにしていくために、みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。

講演ダイジェスト動画

▽第20回ダノン健康栄養フォーラムの概要は、以下をご覧ください↓

一覧へ戻る