2026/02/28

Vol.268 (2) 第27回ダノン健康栄養フォーラムより 「睡眠とヘルシーエイジング」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.268
第27回ダノン健康栄養フォーラムより
睡眠とヘルシーエイジング

医療法人財団厚生協会 東京足立病院 院長
内山 真 先生



私たちは毎日当たり前のように眠っていますが、その背景にはいくつもの仕組みが働いています。なかでも、科学的な根拠が明らかになっているのが、「安心したら眠れる」「夜だから眠れる」「脳が疲れたら眠れる」という3つの働きです。

  • 安心したら眠れる

睡眠は、安全・安心や警戒心と関係しています。肉食動物の睡眠時間が長いのは、自分を襲う敵がおらず、ゆったり過ごすことができるためです。逆に草食動物は警戒が必要なため睡眠が短く、雑食の人間はその中間に位置します。私たちが心配事で眠れなくなるのも、この警戒心や安全感と関係しています。

  • 夜だから眠れる

私たちが夜になると眠くなり、朝に目が覚めるのは、体内時計がリズムを刻んでいるためです。体内時計はホルモンや自律神経をコントロールして、体の機能の活動・休息を切り替えています。また、昼行性・夜行性といった動物の活動パターンも、体内時計の働きによるものです。私たち人間は基本的に昼行性ですが、若い世代には夜型の生活を送る人も多く、年齢を重ねるにつれて朝型に移行しやすくなります。これも体内時計の変化によるものと考えられています。

  • 脳が疲れたら眠れる

起きていると脳が疲れて眠くなるという仕組みには、脳に溜まってくる睡眠物質が関係しています。これは、睡眠を与えずに起こし続けた子犬の脳から得られた物質を注射された別の犬が眠ったという実験結果によって確認されました。この物質の正体は、主にプロスタグランジンD2であることが明らかになっています。

適切な睡眠時間とは?

健康な人の夜間の睡眠時間を脳波で正確に測定したデータによると、長時間眠る乳児期から、幼児になるにつれて睡眠時間は少しずつ短くなっていき、12歳では平均で約9時間になります。さらに、15歳で約8時間、25歳になると約7時間まで減り、45歳では約6.5時間、65歳では約6時間になるという結果が示されています。しかし、従来は「1日8時間の睡眠が必要」と広くいわれてきました。では、7時間前後というこの睡眠時間で本当に十分といえるのでしょうか。

アメリカで行われた110万人を対象にした大規模な疫学調査では、7時間程度(6.5~7.5時間)睡眠の群で6年後の死亡リスクが最も低いという結果が得られました。一方、短い睡眠が良くないのは誰もが予想するところですが、実は睡眠時間が長い人も死亡率が高かったのです。つまり、短くも長くもない、“普通の睡眠時間が一番”だということです。

睡眠が不足すると…

睡眠不足が体に与える影響について、これまでに多くの研究が行われています。健康な人の睡眠時間を3.6時間に制限した実験では、翌日の血圧や心拍数が上昇することが確認されました。別の研究では、健康な人を4時間睡眠で4日間過ごさせたところ、血糖値が上がり、耐糖能が約20%低下するという結果も示されています。また、健康な人の睡眠時間を4時間に制限すると、食欲を高めるホルモンであるグレリンが増え、逆に満腹感をもたらすレプチンが低下することが分かっています。睡眠不足になると食欲が増し、満腹感が得にくくなるのです。このことから、体は不足した睡眠を食事で補おうとするかのような仕組みが働く可能性が示唆されています。

ほかにも、糖尿病や高血圧のリスクは7時間前後の睡眠で低くなること、短時間睡眠および長時間睡眠の人では肥満やうつ病のリスクが高まることなども明らかになっています。

近年明らかになってきたのは、睡眠不足と認知症の関係です。アルツハイマー型の認知症は、脳の老廃物(アミロイドβ)が脳神経細胞の間に溜まることが原因で起こります。こういった脳の老廃物は、グリンパティックシステムと呼ばれる排出経路によって睡眠中に除去されることが知られています。このため、一見すると睡眠不足の方が認知症リスクが高そうに思えます。しかし、実際には長時間睡眠の人で最も認知症になりやすく、短時間睡眠の人はその次で、普通(6~8時間)の人が最も認知症になりにくいことが明らかになっています。歳をとってから睡眠時間が長くなった人では、睡眠時間が変わらないまたは短縮した人にくらべて認知症のリスクが高まるという結果も出ており、これらのデータからも、心身の健康のためにはほどほどの睡眠時間が一番であることが分かります。

睡眠の悩みにどう対処するか?

加齢に伴い、不眠症で悩む方が増加してきます。不眠症とは、眠れない(または十分に眠れない)状態が続き、日中の生活に支障が出ることをいい、成人の約10%が該当するといわれています。不眠症は高血圧、糖尿病、うつ病などのリスクと関連していることも知られており、早期に解消した方がよい問題です。

寝つきが悪い場合には、無理に眠ろうとせずに、体のサイン(ホカホカする、だるさを感じる)を感じたら床に入ることがポイントです。寝つけない場合には点灯してもよいですし、離床してもよいでしょう。あせらず無理をしないことが大切です。

ぐっすり眠るためには、寝床で過ごす時間を適切にすることも大切です。特に高齢になると時間に余裕ができて“早寝・遅起き”になりがちです。例えば、10時に寝て7時に起きるという一見健康的な睡眠習慣でも、実際には9時間と長く、成人にとっては過剰な睡眠となります。中途覚醒したり眠りが浅くなったりするのを避けるには、“遅寝・早起き”に調整し、寝床で過ごす時間を7時間程度にすることが大切なのです。また、日中の不活発は睡眠が浅くなることにつながります。適度な運動習慣を心がけることで、脳を疲れさせて深い睡眠を促進することができます。

また、加齢に伴って生活リズムは朝型化してきます。そのために、朝早くに目が覚めたり、夜早くから眠くなったりするという問題が生じます。このような場合には、朝に光を浴びることを避けて体内時計を調整することが有効です。朝日が入らないようにカーテンを閉めておいたり、散歩に行くときにはサングラスをかけたりするのもよいでしょう。

ヘルシーエイジングのためには、ほどほどの長さの質の良い睡眠が非常に重要です。ただし、そこにこだわりすぎて眠ること自体を日々の重要な課題にしてしまうのは本末転倒です。私たちは、眠るために生きているのではありません。食生活や運動も意識しながら、充実した生活を送り、人生を楽しんでいただければと思います。

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