2026/01/29

Vol.266 (2) 第27回ダノン健康栄養フォーラムより 「食とヘルシーエイジング」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.267
第27回ダノン健康栄養フォーラムより
食とヘルシーエイジング

女子栄養大学 栄養学部 教授
新開 省二 先生



中年期にはメタボリックシンドロームや生活習慣病がヘルシーエイジングに向けた主要な健康課題となりますが、高齢期では加齢に伴う生活機能(心身や社会的機能)の低下が、健康に最も大きな影響を及ぼすと考えられます。そのため、高齢期においては“生活機能の自立”がヘルシーエイジングの重要な目標となります。

草津町研究から見る、健康余命の喪失リスク

私たちが行っている「草津町研究」では、65歳以上の住民を対象として毎年実施する高齢者健診からデータを蓄積しています。このデータを用い、健康余命に影響する要因を、大きく生活習慣病要因(高血圧、脳卒中、心疾患、糖尿病の既往)と加齢関連要因(握力、通常歩行速度、アルブミン、ヘモグロビン)に分け、介護認定を受けるまでの期間を健康余命と定義して、その喪失リスクを調べました。その結果、高血圧や脳卒中の既往が健康余命に強く影響することがわかりました。また、握力や通常歩行速度といった身体機能、アルブミンやヘモグロビンといった血中の栄養指標が一定水準を下回ると、非常に強い健康余命の喪失リスクになることも明らかになりました。

私たちは、脂質異常症やメタボリックシンドロームが健康余命に及ぼす影響についても検討しました。non-HDLコレステロール高値、HDLコレステロール低値、または脂質異常症治療薬服用のいずれかに該当する場合に脂質異常症ありと定義し、その有無による健康余命喪失リスクを評価しました。その結果、脂質異常症がある人の方が健康余命が長いというデータが得られました。メタボリックシンドローム、その予備群、非メタボの3群を6年間追跡した結果では、この3群間で健康余命への影響に差がないことがわかりました。

なお、糖代謝関連指標としてHbA1cと10年間の認知機能低下リスクを調べたところ、75歳以上では、HbA1cが5.4%を下回る集団において、非常に高い認知機能低下リスクが認められました。

これらの結果から、脂質異常症やメタボリックシンドロームは高齢者の健康余命に大きな影響を与えないことが示されました。また、HbA1cが5.4%を下回るのは低栄養状態を示唆するものであり、高齢期は疾病そのものよりも栄養状態が健康寿命に強く影響する時期であると考えられます。

多様食を、美味しく、楽しくいただく

 私たちは、食品摂取の多様性を評価する指標として「食品摂取の多様性スコア(Dietary Variety Score:DVS)」を開発し、これを用いた研究を長年続けています。DVSは、肉類、魚介類、卵類、大豆製品、牛乳、緑黄色野菜、海藻、果物類、いも類、油脂類の10食品群から構成されています。これらについて、「ほぼ毎日食べる」を1点、頻度がそれ以下の場合は0点とカウントし、合計得点を算出します。(10点満点) 簡便に評価でき、誰でも使いやすいことが最大のメリットです。

厚生労働省の健康日本21(第二次)では、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が、1日2回以上の日が「ほぼ毎日」の者の割合の増加」を目標の1つとしています。そこで、主食・主菜・副菜を揃える頻度とDVSとの関連を調べたところ、主食・主菜・副菜を1日2回以上そろえることをほぼ毎日続けている方ではDVSが高い傾向にありました。一方、主食・主菜・副菜をそろえる頻度が少なくなると、スコアは低下しました。つまり、普段の食事で主食・主菜・副菜を意識してそろえることで、食品摂取の多様性を高められるということです。

DVSは、高齢期におけるさまざまな健康指標に対して保護的に作用することが分かっています。例えば、DVSが高い人では、身体機能や筋肉量の低下が少なく、フレイルやサルコペニアのリスクが低い傾向にあります。また、要介護や要介護認知症の発生率も低く、精神的健康度も良好で、生活機能の自立度が維持されやすいといえます。

さらに、DVSを改善することで、フレイルの指標に有意な変化が認められました。具体的には、3か月間の介入後、上肢筋力および下肢筋力が統計的に有意に向上しました。多様性に富んだ食事をとることで、身体機能が改善し、ひいてはフレイル予防にもつながると考えられます。

近年、1人暮らしの高齢者が増えています。1人暮らしの方は、1日3度の食事を基本的に1人で食べています。そこで、居住状況(同居・独居)と食事の形態(共食・孤食)の組み合わせが、高齢者の身体的・精神的健康にどのように関係するかを検討しました。その結果、孤食群では共食群に比べてフレイルの出現リスクが約2倍高いことがわかりました。この傾向は同居・独居に関わらず見られました。さらに、精神的健康度についても同様で、孤食群では共食群に比べて精神的健康度の低下リスクが1.4~2.1倍高いという結果が得られました。この分析では、複数の要因を統計的に調整した上でも、孤食とフレイル、精神的健康度の関連が認められています。つまり、孤食は他の要因とは独立して、これらの健康指標に影響すると考えられます。

これらのさまざまなデータからも、ヘルシーエイジングを実現するためには、地域社会において共食の機会を意識的に設け、「多様食」を「美味しく」、そして「楽しく」食べることが大事なのではないかと思います。

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