2026/01/29

Vol.267 (3) 健康・栄養に関する学術情報 「時間栄養学の視点で考える栄養管理:高齢者の朝食のたんぱく質の質に着目した疫学研究より」

メールマガジン「Nutrition News」Vol.267  2025年2月2日発行
健康・栄養に関する学術情報
「時間栄養学の視点で考える栄養管理:高齢者の朝食のたんぱく質の質に着目した疫学研究より」

世界的に高齢化が進んでいる昨今、高齢者の健康増進は公衆衛生上、喫緊の課題だと考えられています。

食生活は高齢者の健康増進には重要な対策のひとつです。

今回は木下かほり(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター)による「高齢者の朝食のたんぱく質の質に着目した疫学研究より」から、時間栄養学の視点から見た高齢者の栄養管理の在り方についての総説を紹介します。

健康寿命延伸、フレイル、朝食欠食

・近年注目を集めている時間栄養学は「何をどれだけ」に「いつ」の概念を加え、体内時計を意識して食事をする回数、タイミング、量、栄養素割合などを考慮することで疾病発症を予防し、健康寿命延伸を目指すものである。

・フレイルとは、加齢に伴う様々な機能変化や予備能力の低下により健康障害に対する脆弱性が増加した状態をされ、要介護状態に至る前段階をさす。

・フレイルの発症や進行を引き起こすリスク要因は集団特性、社会的要因、臨床的要因、生活習慣、生物学的要因等、多岐にわたることが報告されている。

・朝食の欠食により1日に必要な栄養素の充足が難しくなることから、フレイル対策として朝食摂取は重要である。

・75歳以上の地域住民2,468名を対象とした筆者らの調査では、朝食を週に1回以上欠食するものは毎日食べるものと比較してフレイルの有症率が高く、習慣的な1日あたりのエネルギーや栄養素摂取量、栄養素密度が低値を示した。

・平均年齢70.8歳の高齢者712名を対象とした研究では、朝食欠食者では野菜、果物、魚の摂取量が有意に低値を示すとしている。

・60歳以上の3,758名を対象とした研究では朝食の日常的な摂取はプレフレイルおよびフレイルのリスクを低減する可能性があることが報告されている。

体内時計と老化

ヒトの体内時計は脳にある中枢時計と末梢組織に存在する末梢時計により支配されているが、ヒトの概日リズムは地球の周期である24時間より長いため、体内時計を24時間にリセットする必要がある。

・マウスの研究から、明暗シフトを攪乱させ体内時計を乱すと慢性炎症の増大や免疫老化の亢進を生じ、寿命が短縮することが報告されている一方で、活動時間に食事をし、睡眠すべき時間に食事をしないという地球の周期に応じた食事は寿命を延長することが明らかになっていることから、体内時計の乱れは老化を促進する恐れがあると考えられる。

・若齢と高齢のマウスでは食事による末梢時計の同調作用は同等であるという報告もある。

・これらのことから高齢者では食事や運動による末梢時計の同調、すなわち時間栄養学的な栄養管理が健康維持に重要な役割を果たす可能性がある。

たんぱく質の摂取タイミングと骨格筋合成

・近年、高齢者の身体機能維持に不可欠な骨格筋でのたんぱく質の合成や分解に関する筋機能関連遺伝子も概日リズムを有することが明らかになっている。

・平均36.9±3.1歳の成人男女を対象にしたたんぱく質の1日の分配量の違いと骨格筋でのたんぱく質合成率との関係を調査した研究では、たんぱく質を朝・昼・夕の食事で均等にした群と夕に多くした群では前者の方が有意に高いという結果を示した。

・1日の中で朝食に最も多くたんぱく質を摂取する分配で最も高い筋肥大を認めることも近年報告されている。

・しかし、高齢者では加齢に伴い食事摂取量が減少することから小食で多くのたんぱく質を摂取することが容易ではないことも考えられる。

高齢者の栄養管理における留意事項

高齢者では食事摂取量が減少しやすいが、これを「Anorexia of Aging」と呼び、高齢期の食欲不振および(または)食事摂取量の低下と定義される。これは加齢に伴い生じる複数の要因から引き起こされ、サルコペニア、フレイルをきたし不良な健康状態を招くと考えられている。

加齢に伴いエネルギー必要量は減少するが、微量栄養素の必要量はエネルギー必要量ほど減少しないことから、高齢者では栄養素密度の高い食事をすることが望ましい。

高齢者の朝食のたんぱく質の質に着目した疫学研究より

・筆者らは60-83歳の地域住民701名(男性53.5%)を対象とした最大9.2年間の追跡調査にて、朝食のたんぱく質の質と筋力低下の関連を検討した。

・「筋力低下」はアジアのサルコペニア診断基準に含まれる握力の基準値を用いて評価し、「たんぱく質の質」はたんぱく質の生物学的利用能を示すたんぱく質消化性補正アミノ酸スコア(PDCAAS)を用いて評価を行った。

・追跡期間中に新たに発生した筋力低下との関連を見ると、たんぱく質の質が高い朝食であった者ほど筋力低下を生じにくいことが分かった。

・この関係は昼食や夕食では見られなかった。

まとめ

高齢者では食事摂取量が減少しやすいという特徴があることから、健康増進においては時間栄養学的なサポートが重要な可能性があります。しかし、高齢者を対象とした時間栄養

学的研究、とくに疫学研究は非常に少ないことから今後の発展が期待されると筆者は述べています。

「いつ」「何をどれだけ」という様々な角度から食生活を整えることはこれからの健康寿命の延伸にも大きく関わってくるのかもしれませんね。

詳細は下記論文をご参照下さい。

木下かほり.時間栄養学の視点で考える栄養管理:高齢者の朝食のたんぱく質の質に着目した疫学研究より.日本栄養・食糧学会誌.第78巻,第2号,107-113(2025)




本論文はオンライン公開されており無料で閲覧できます。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs/78/2/78_107/_pdf/-char/ja

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