メールマガジン「Nutrition News」Vol.261 2025年8月1日発行
健康・栄養に関する学術情報
「ーいい塩梅(あんばい)ー どうすれば上手に減塩できますか?」
日々いただく食事を美味しくするのに塩味は欠かせません。塩味は食塩から来ていますが、食塩を多く摂り過ぎると高血圧の原因になることが知られています。日本の高血圧患者の数は約4,300万人で、およそ3人に1人にあたります。この高血圧の問題を軽減するため、食塩を多く摂り過ぎないようにとのメッセージがあちこちで発信されており、耳にすることも多いでしょう。でも、ついつい美味しさを優先して味を濃くしてしまうこともあります。どうすれば食塩を上手に減らせるのでしょうか?そもそも、現状どのくらい食塩を摂取していて、どのくらい減らせばいいのでしょうか? (公社)地域医療振興協会の嶋田雅子先生らの「地域における減塩活動の現状と今後の展開」に、減塩活動を実践するためのヒントが紹介されています。
食塩摂取量の実際
日本人の食事摂取基準(2020年版)では食塩摂取の目標量が、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされている。それに対し、実際の摂取量は2018年の国民健康・栄養調査で男性11.0g/日、女性9.3g/日と、目標との乖離がある。
地域の減塩活動
呉市(広島県)
医師会の主導のもと、行政・学会・飲食店・企業などが連携した取り組みが行われた。
- 減塩食を提供する飲食店の認証
- 地元企業と連携した減塩食品や弁当の開発・販売
- 市内のレストラン、宅配、小売店で手軽においしい減塩食を入手できる環境づくり
- 地域のタウン情報誌を活用した広報活動や、認定店の紹介、医師からの健康情報の発信
- 「減塩サミット in 呉 2012」の開催を通じた社会への広報
- 小学校での減塩給食の導入など、子ども時代からの減塩教育の実施
- 医療機関や健診での尿検査により、推定食塩摂取量を市民が把握できる体制の整備
下呂市(岐阜県)
高血圧者に加え、子どもから高齢者までを対象とした減塩教育と、食環境の整備に取り組んでいる。
- 減塩推進週間の制定
- 小売店や外食店など減塩推進協力店を認定し、日本高血圧学会が推奨する減塩食品を提供
- 小売店では食品メーカーの協力により減塩商品の取扱数が増加
- 外食店では学会推奨の減塩食品を使用し、「スマートミール」の認証を受けた食事の提供
その結果、特定健診の受診者における高血圧の割合が減少し、高血圧や脳血管疾患の受療率にも改善傾向が見られた。
筑西市(旧協和町/茨城県)
地域ぐるみの減塩教育キャンペーン活動を展開している。
- メディアを活用した広報活動、町の事業を通じた住民への啓発
- 小中学生を対象とした減塩教育
- 食品協会と連携した減塩メニューの提供
- 食事調査や尿検査を通じて、食塩摂取量の推移を把握
- 脳卒中の発生率の評価
周防大島町(山口県)
産官学民で取り組んだ成果を、年に1回の町のイベントを通じて町全体で共有し、機運を向上している。
- 大学や専門機関と連携して、地区住民や小中学生の食事調査を実施
- 調査データをフィードバックすることで、住民組織が活動への確信を得て積極的に参加
- 町民がいつでも尿中の食塩摂取量を測定できる体制の整備
美浜町(福井県)
地区ごとに食事調査結果や健診の受診状況をとりまとめ、各地区に提供して主体的な取り組みを引き出している。
- 3つのモデル地区を設定し、住民と話し合いながらそれぞれの地域で取り組みを実施
- モデル地区での成果を他地域に紹介し、年間5〜6地区ずつ活動を拡大
- 減塩だけでなく、肥満対策として減量にも取り組み
- 「げんげん運動(減塩・減量運動)」という親しみやすい名称を設定
- 福井大学と連携し、減塩へしこの開発を実施
これらの取り組みにより、特定健診や国保医療費における高血圧の割合が減少するなどの成果が得られた。
食塩摂取源を特定した減塩活動
国別に食塩摂取源を調査し、どのような食習慣が高い食塩摂取につながっているのか調べた国際共同研究で、
- 日本とアメリカ:調味料と食品加工品からの摂取が約半々
- 中国:約9割を調味料から摂取
- イギリス:約7割を加工食品から摂取
であることが分かった。すなわち、国によって効果的なアプローチが異なる。
イギリスの例では、パンの食塩含有量を10年間で20%減少させることにより、24時間蓄尿による研究では、食塩摂取量が7年間で15%(1.4g/日)減少、血圧および、虚血性心疾患死亡率40%、脳卒中死亡率が42%減少した。
中国と同様に調味料から食塩を多く摂取しているベトナムでは、家庭での調理時や食卓での塩の使用を減らすこと、減塩食品の選択を地域全体で啓発し、摂取量の減少につなげた。
日本での例として、新潟県での調査により、みそ汁の杯数よりも「おにぎりとカップ麺」といった主食同士の組み合わせや、カレーや丼ものなどの単品料理が食塩摂取量に影響を与えていることが明らかになった。
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減塩活動は、地道に続けることが大切になります。仲間の顔が見え、楽しんでできる活動であれば、続けられそうな気がします。紹介した地域の例は、そんな身近な活動なのでしょうね。食塩摂取量が尿検査で分ったり、食生活から効果的なアプローチを考えたりと、自分自身のこととして考えるのも、興味を持って取り組むコツのように思います。
いい塩梅のところを見つける減塩活動、仲間と一緒なら私にもできそうです‼編注:論文中の「日本人の食事摂取基準」および「国民健康・栄養調査」は発表当時の最新版です。2025年8月現在、「日本人の食事摂取基準」は2025年版)が、「国民健康・栄養調査」は令和5年版が公表されています。
詳細は下記論文をご参照ください。
嶋田雅子, 川畑輝子, 村中峯子, 中村正和. 地域における減塩活動の現状と今後の展開. 月刊地域医学. 2020. 34 (6); 462-467.
本論文はオンライン公開されており無料で閲覧できます。
https://healthprom.jadecom.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/06/Cmed3406_462-467-1.pdf
広島大学 学術・社会連携室 未来共創科学研究本部 研究戦略部 研究戦略推進部門
西田 聡 筆