2025/06/27

vol.260 (2) 2022年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告「口腔内環境と常在細菌叢に着目した口腔癌発症機構の解明とプロバイオティクスの探索」

メールマガジン「Nutrition News」  Vol.260 2025年7月1日発行

「口腔内環境と常在細菌叢に着目した口腔癌発症機構の解明とプロバイオティクスの探索」

大阪公立大学大学院 医学研究科
神谷 知憲

【要旨】

口腔がんは希少がんであるが、最近我が国で著しく増加しているがんとして注目される。リンパ節転移のリスクを抱え、治療後のQOLも良いとは言えず、発症機構の解明や診断・予防法の開発が喫緊の課題である。ヒトの体には3兆個以上の常在細菌が共生し、宿主の生命活動に役立つ一方、定常状態が破綻したDysbiosisに陥ると様々な病態を誘発する。近年、口腔由来の菌種が大腸がんの促進に働くことが報告されたが、口腔細菌の口腔がんへの関与は深く研究されていない。本研究では、口腔細菌叢と口腔がんの関係について、唾液細菌叢を比較した結果、口腔がん群にて減少している菌種の存在が明らかとなった。また、口腔がんのリスク因子である喫煙を介して口腔細菌叢に影響を及ぼしているかを検証したところ、非常に弱い相関しかなかった。さらに、口腔環境への影響を比較するため、患者唾液由来細菌の口腔pHへの作用を検証した。その結果、健常群、及び口腔がん群から単離した株同士での変化は見られなかったが、菌種によってpH低下の程度が異なること認められた。口腔がんの状態であっても唾液などの細菌叢に大きな変化はないというのは意外な結果であったが、腫瘍内部は特殊な環境(低pH、低酸素)であることが予想された。今後は口腔内のpHや乳酸の測定や健常群にて増加している菌株による検証などが必要であり、また、腫瘍内に存在する細菌叢の働きについても注目していきたい。

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