「植物ベースの食生活が栄養面で及ぼす影響とは?」
“ダイバーシティ”という言葉を、様々な分野で耳にするようになりました。ダイバーシティは日本語では「多様性」と訳され、性別、人種、国籍、価値観など様々な違いを尊重する考え方を言います。食の分野でも、在留外国人やインバウンドが増加したことなどから“フードダイバーシティ(食の多様性)”の概念が注目されるようになりました。ベジタリアンの食生活もその1つです。
宗教上の理由や動物愛護、健康のためなど、ベジタリアンを選ぶ理由は様々です。近年では食のサステナビリティの観点から菜食が推奨されることも多く、植物ベース食品の市場も拡大しているといいます。
ベジタリアンの種類
ベジタリアンというと「植物性の食品しか食べない」と思われがちですが、必ずしもそうではありません。一般的に“ベジタリアン”と言う場合、肉や魚は食べないけれど卵や牛乳・乳製品は食べる“ラクト・オボ・ベジタリアン”を指します。他にも、牛乳・乳製品は食べる“ラクト・ベジタリアン”、卵は食べる“オボ・ベジタリアン”、卵と牛乳・乳製品の他に魚も食べる“ペスカタリアン”など、様々な種類があります。また、菜食を基本としながらも時には肉や魚も食べる柔軟なスタイルをもつ“フレキシタリアン”は、日本では“ゆるベジタリアン”とも言われています。
一方で、“ビーガン”は、肉や魚、卵、牛乳・乳製品のみならず、蜂蜜などすべての動物由来の食品を避ける厳格な菜食スタイルです。人間による動物からの搾取を排除する生き方(ビーガニズム)に基づいており、食生活だけではなく、衣類(革製品、ウール、絹など)や生活全般において可能な限り動物性の製品やサービスを避けるライフスタイルは“エシカル・ビーガン”と呼ばれています。
植物ベースの食生活、栄養面の影響は?
植物ベースの食生活では、肥満や二型糖尿病、高血圧、脂質異常症などの非感染性疾患のリスクが低下すると報告されています。一方で、私たちが必要とする栄養素の中には、植物ベースの食生活で十分な量を得るのが困難なものもあります。例えば、植物性の食品に含まれるたんぱく質には必須アミノ酸の含有量が少ないものが多く、良質なたんぱく質の摂取が不十分となる可能性があります。また、ビタミンDについては、特にビーガンの食生活や、牛乳・乳製品を摂らない食生活を送る人で不足のリスクが高まると言われています。さらに、植物性の食品に含まれる非ヘム鉄は吸収率が低いことや、植物にはシュウ酸塩やフィチン酸塩など鉄の吸収を阻害する物質が含まれていることから、菜食主義者では鉄欠乏性貧血のリスクが増加することも報告されています。その他、n-3系脂肪酸、カルシウム、ビタミンAなども不足しやすいことが示唆されています。
これらのことからも、植物ベースの食生活では、状況に応じて栄養士等の専門家によるアドバイスのもと、不足していると考えられる栄養素をサプリメント等で補うことも重要となるでしょう。
なお、同じ植物ベースの食生活でも、肉や魚を食べることもあるフレキシタリアンの食事の場合には、栄養不足のリスクを軽減できると考えられています。
“ダイバーシティ”や“サステナビリティ”が、これからの食のあり方を考える上で重要な視点である一方で、栄養の観点からは動物性の食品と植物性の食品を一概に比較することはできません。動物性食品を極端に避けることで栄養不足を引き起こすリスクも踏まえ、慎重な議論や、科学的根拠に基づいた正しい情報の提供が求められると言えるでしょう。
参考
Luis A Moreno, Rosan Meyer, Sharon M Donovan, Olivier Goulet, Jess Haines, Frans J Kok, Pieter van’t Veer. Perspective: Striking a Balance between Planetary and Human Health—Is There a Path Forward? Advances in Nutrition, Volume 13, Issue 2, March 2022, Pages 355–375.
https://doi.org/10.1093/advances/nmab139