第23回ダノン健康栄養フォーラムより
パネルディスカッション:ICTを活用した遠隔栄養指導 コロナ禍における栄養指導 ー 遠隔栄養指導への取り組み (後編)
座長: 日本栄養士会 専務理事 下浦 佳之
パネリスト:株式会社リンクアンドコミュニケーション 最高公衆衛生責任者 佐々木 由樹
那覇市立病院 医療技術部 栄養室 管理栄養士 玉城 嘉乃
メールマガジン「Nutrition News」vol.220に続き、パネルディスカッション「ICTを活用した遠隔栄養指導」の後半の内容をご紹介します。
下浦先生:
フォーラムを受講された方から「遠隔での栄養指導の媒体はどのようなものを使用し、どのように対象者に示していますか?」という質問が寄せられていますが、いかがでしょうか。
佐々木先生:
当社では画面で資料を共有しています。しかし、画面共有だけでは対象者の満足度はそれほど高くなく、今後は別の方法も考えなければと考えています。
玉城先生:
当院では初回に対面栄養食事指導をするので、その時にフードモデルを活用しています。また、必要な資料は初回の対面指導時にできるだけ配布するようにしています。
下浦先生:
対象者の中には「分かってはいるけれどやめられない」「もう放っておいてくれ!」というような方もいらっしゃるかと思います。佐々木先生のご講演の中で、アプリに2億通りのアドバイスパターンがあるとのことでしたが、このような方に対してもAIは対応できるのでしょうか。
佐々木先生:
アドバイスについては、狭義にはAIではなくアルゴリズムで作っています。例えばガイドラインの数値が変わった時にもその数値だけを直せば良いですし、「なぜこのアドバイスが出たのか?」という時にもトレースが可能だからです。一方で、同じアドバイスでもメリットを伝えた方が行動変容につながりやすい方もいれば、感情に訴えた方が行動変容につながりやすい方もいます。そこで、アドバイスの内容を、それぞれの対象者がより行動変容しやすいような言い回しにAIで変えていくということに着手しているところです。
下浦先生:
玉城先生のいらっしゃる沖縄県には離島がありますが、離島の方々に対する遠隔栄養指導というのは今後どういった形で拡大していくとお考えでしょうか。
玉城先生:
当院で電話での栄養指導を始めてから離島の方がいらっしゃらなかったので、現状では介入はしてはいません。しかし、離島などの医療サービスが行き届きにくい地域にお住まいの方こそ、電話などによる遠隔栄養指導で継続的に介入を行っていく必要があるのではないかと思っています。
下浦先生:
佐々木先生にお聞きしたいのですが、高齢者の中にはアプリを使ったりすることに拒否感がある方もいらっしゃると思います。何かアドバイスはありますか?
佐々木先生:
高齢の方の場合は、アプリをダウンロードしてあげたり、操作を何度か一緒にしてあげたりすることが重要だと思います。「こうすると食事が登録できる」「こうするとアドバイスが返ってくる」ということが分かれば、高齢の方でもアプリを使うことができます。実際、利用者の中には80代の方もいらっしゃいますし、50代、60代、70代と年齢が上がるごとにアプリの継続率も上がっています。
下浦先生:
最後に、受講者の皆様方に伝えておきたい一言をお願いします。
佐々木先生:
リモートで面談をする際に画面に映っている対象者の顔を見てしまうと、対象者には自分のことを見ていないように感じられてしまいます。最初だけでもカメラを見て話すようにすると、それだけで安心感が生まれると思います。また、なるべく人に近づけられるようにAIを作っていますが、“より親身に”という点ではまだまだ人間にかないません。AIができるところはAIに任せ、生身の指導者の皆様にはより親身に、対象者に寄り添っていただくことで補完関係になり、対象者に満足いただけると思います。
玉城先生:
情報通信機器を活用した栄養指導が、コロナ禍で受診回数が減った方や、コロナ禍でなくても離島などの医療サービスが行き届きにくい地域に暮らす方への新しい介入ツールとして広く周知され、活用されるようになれば、より良い医療の提供につながるのではないかと期待しています。
下浦先生:
本日はお二人の先生にお話しを伺いました。
科学技術が進化し、Society 5.0という時代の到来が言われていますが、求められているのは一人一人の人間を中心とした社会であると思います。そのような中で管理栄養士・栄養士はどのように栄養指導を行い、社会においてどのような役割を担っていくべきか、これからも皆様と一緒に考えていきたいと思っています。
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