講演1

座長
名古屋大学 名誉教授
人間総合科学大学 人間科学部 客員教授
大澤 俊彦

「ヘルシーエイジングの科学」
国際医療福祉大学 医学部 老年病学講座 教授
浦野 友彦


 


 我が国は世界に類をみない超高齢社会であり、多くの高齢者が身体的・精神的・社会的に良好な状態で過ごすヘルシーエイジングに注目が集まっている。ヘルシーエイジングを目指すことは大きな理想であるが、現実には要支援、要介護高齢者も多く日本においては20%近い高齢者が要支援、要介護状態にあることが報告されている。高齢者では、フレイル(Frailty)という中間的な段階を経て、徐々に要介護状態に陥ることが重要視されている。フレイルに陥った高齢者を早期に発見し、適切な介入をすることが高齢者のヘルシーエイジングに重要であると考えられ、高齢者がフレイルになる科学的なエビデンスの構築が注目されている。
 フレイルには骨や筋肉の老化によって発症する骨粗鬆症やサルコペニアといった疾患が大きく関与すると考えられている。我々は様々な地域でのコホートデータを用いて、高齢者の骨粗鬆症、脆弱性骨折、フレイル、サルコペニアに関する臨床研究を行っている。我々は長野県でのコホートデータを用いて、脆弱性骨折に関与する因子として脊椎圧迫骨折、血中Nitric oxide濃度低値、分枝鎖アミノ酸濃度低値、葉酸値濃度低値、ホモシステイン濃度高値さらにはLRP5遺伝子などの遺伝子多型といった要因を明らかにしてきた(Shiraki, Urano et al. PLoS One 2023, Kuroda, Urano et al. Sci Rep 2024, Urano, Shiraki et al. Geriatr Gerontol Int 20 24)。さらに分枝鎖アミノ酸濃度低値、さらには骨粗鬆症や椎体骨折の既往がフレイルのリスク因子となり、骨の老化とフレイルが密接に関連することを明らかにした(Urano, Shiraki et al. Geriatr Gerontol Int 2024, JBMR Plus 2025)。
 また、イギリスにおけるコホートデータを用いて、早期閉経や喫煙といった骨粗鬆症と共通したリスク因子がフレイル発症のリスク因子であることを明らかにした(Kojima, Urano et al. J Am Geriatr Soc 2022, J Am Med Dir Assoc 2024)。さらに、栃木県一般在住高齢者を対象にコロナ禍における外出の低下など、社会様式の変化がフレイルに悪影響を及ぼすことを明らかにした (Hirose, Urano et al. J Am Geriatr Soc 2023, J Nutr Health Agin g 2024, J Nutr Health Aging 2025)。一方、通所リハビリテーション患者を対象とした研究では、サルコペニアに対する介入効果が得られる要因に関しても探索を行ない、栄養の重要性を見出した(Sato, Urano et. al., J Phys Ther Sci. 2023)。また、骨粗鬆症とサルコペニアを合併しているオステオサルコペニア患者では、どちらの疾患も病態がよりシビアであることを見出した(Shiba, Urano et. al., J Phys Ther Sci. 2022)。
 このように高齢期におけるヘルシーエイジングを妨げる因子としてフレイル、骨粗鬆症、サルコぺニアが密接に関与していることを明らかにすると同時に、その背景因子である栄養因子、血中マーカー、遺伝的素因を明らかにした。本講演ではこれらの内容を解説していく。


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