基調講演

座長
公益財団法人ダノン健康栄養財団 理事長
国家公務員共済組合連合会虎の門病院 名誉院長
東京大学 名誉教授
大内 尉義

ヘルシーエイジング社会の実現を目指して
国際医療福祉大学 副学長
山本 尚子

 日本は世界で最も高齢化が進んだ国ですが、韓国、中国やシンガポールなどの国々においても高
齢化率が急激に上昇しています。高齢化の進展はアジア地域にのみならず世界的な傾向であり、世
界の65歳以上の人口は2021年では7億6,100万人ですが、2050年には16億人を超え世界人口の
16%を占めると推計されています。そして、これらの高齢者の約3分の2はいまでもアフリカ、中南米、
中国やインドなどの開発途上地域に住んでいますが、2050年には65歳以上人口の80%が低中所
得国に住むと予想されています。
 人口構造の変化に対応した保健や社会のシステムを構築することは全ての国が直面する課題で
あるとの共通認識の下、2020年に国連加盟国は「健康長寿の10年(United Nations Decade of
Healthy Ageing 2021-2030)」を決議しました。WHOはHealthy Ageingを「高齢であっても、
満足できる生活状態を可能にする機能的能力(心身の総合的な能力)を作り、維持するプロセス」と
定義し、「病気や脆弱ではないことだけでなく、その人らしく、その人が大切にしていることができるよ
うな環境と機会を作り出すこと」を目指しています。その実現のためにWHOが世界と共に取り組む4
つの柱として、①年齢やエイジングに対する考え方を変える、②高齢者の社会参加や貢献の促進、③
個々のニーズに対応した総合的ケアやプライマリー・へルス・サービスの提供、④介護ケアへのアクセ
ス、を掲げています。
 WHOが掲げるHealthy Ageingへの取り組みは、ライフコース・アプローチを謳っているものの、
高齢者の健康に深く関係する生涯を通じた「食と栄養」や「身体活動・運動」、さらに高齢者の心身の
健康のみならずウエルビーングに関わる社会とのつながりなどが、それぞれ別の枠組みで進められて
いることから、今後これらの取組が「Decade of Healthy Ageing」の中で、総合的、調和的に推進
されること、そしてそれに対する日本の貢献が期待されます。

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