パネルディスカッション

座長
神奈川県立保健福祉大学 学長/公益社団法人日本栄養士会 会長
中村 丁次

「在宅ケアにどう取り組むか?」

関東学院大学 栄養学部 管理栄養学科 教授
田中 弥生

住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、地域包括ケアシス
テムの構築が叫ばれている。人は生まれてから死を迎えるまで、食事は必要に迫られるものである。
自分は健康だと認識し、このままの食生活ではあらゆる生活習慣病が訪れるとは認識していても「食
の好みや楽しさ」が優先し疾病予防ができないことが多い。管理栄養士・栄養士は生活の食支援者と
して、地域の食堂、配食サービス事業、地域の商店(スーパーマーケット等)、買い物の支援、経済
力、介護者の協力に加えて医療・介護までも考慮が必要であり、地域住民に必要なサービスを模索し
つつ医療・介護・生活面として構築していかねばならない。このように顔の見える管理栄養士・栄養
士を増やし、長期に渡る継続的な地域ケアの関与が必要であるが、栄養評価しその栄養ケアに結び付
く人的資源はいまだ不足している。このシステムを具体化できる場所として栄養ケア・ステーション
があり、地域住民に寄り添った「食環境の整備を推進する拠点」として重要な拠点として位置付けら
けられている。この栄養ケア・ステーションは2002 年から、(公社)日本栄養士会において、地域
における栄養(食育)活動・支援の拠点として「栄養ケア・ステーション」を設置した。2008 年よ
り都道府県栄養士会栄養ケア・ステーション、さらに昨年4 月より地域密着型の認定栄養ケア・ステ
ーションがスタートした。認定栄養ケア・ステーションとは、日本栄養士会・都道府県栄養士会の会
員であることが必務で、医療機関、公的機関、医療保険機関、民間機関などの地域密着型であり自立・
採算性のある事業を拠点とし現在では244 の栄養ケア・ステーションが設置されている。そのため都
道府県栄養士会ではセンター機能が必要となり、増加する認定栄養ケア・ステーションとネットワー
クを組んでいくことが必務である。
この取り組みに期待を示している地域住民が、自分達でフレイル予防を主に食の改革をしたいと申
し出てきた。まさに地域共生社会の中の栄養ケア・ステーションが早急に在宅ケアに取り組む必要が
ある。言い過ぎかも知れないがパイオニアを傍観し、誰かを待っている管理栄養士・栄養士から脱却
し、経営マネジメントができる栄養ケア・ステーションを推進したい。

武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科教授
前田 佳代子

日本は世界に類を見ないスピードで高齢化が進み、高齢化率は過去最高の27.7%(2017 年10 月1
日現在)となり、総人口が減少する中で、高齢化は上昇を続け2035 年には、3 人に1 人が65 歳以上
になることが予測されている。そのような状況の中、要介護認定を受ける人は年々増加しており、年
齢別の要介護認定の状況では前期高齢者である65~74 歳の要支援および要介護認定を受けた人の割
合に対し、後期高齢者である75 歳以上の要介護認定を受けた人の割合が大きく上昇している。特に
65 歳以上の要介護者等の介護が必要になった主な原因は第1 位 認知症、第2 位 脳血管疾患(脳卒中)、
第3 位高齢による衰弱の順である。今後の高齢者人口の見通しから75 歳以上人口は、都市部では急
速に増加し、もともと高齢者人口の多い地方でも緩やかに増加する。各地域の高齢化の状況は異なる
ため、地域の特性に応じた対応が必要になり、日常生活に支障を来すような症状や意思疎通の困難さ
が多少見られても誰かが注意すれば自立できる状態の高齢者が増加することが見込まれる。
このような現状を踏まえ、わが国は、団塊の世代が後期高齢者となる2025 年を目途に高齢者が住
み慣れた地域で自分らしい生活を人生の最期まで続けることができるよう住まい・医療・介護予防、
生活支援が包括的に確保される地域包括ケアシステムの構築を推進している。地域包括ケアの鍵とな
るのが栄養・食事である。切れ目のない在宅ケアを行うには、管理栄養士は病院から在宅への移行支
援が必要となる。そのためには情報の共有・確認が必要となるが、しかしながら在宅ケアの中で管理
栄養士・栄養士が積極的に地域にアウトリーチしてアクセスするには小さな組織では、認知度が低く、
なかなか広がらない。その打開策として、在宅訪問栄養食事指導の効果を多職種への認知と利用して
貰うために、平成23 年度(2011 年)より日本栄養士会と共同認定である在宅訪問管理栄養士を育成し、
さらにスキルの高い在宅訪問栄養食事指導を実施するため平成29 年度(2017 年)より在宅栄養専門管
理栄養士の認定を行っているが、指導件数は多職種と比較すると低い。今回、認定後の現状について
のWeb 調査結果より、今後、在宅ケアにどう取り組んでいくのかについて提案をしたい。

医療法人正翔会 ながお在宅クリニック
熊谷 琴美

団塊世代が後期高齢者となる2025 年にむけて、介護保険の目的である「高齢者の尊厳の保持と自
立生活の支援」が地域で支援できるよう、栄養の観点から在宅ケアをどのように実施し、地域に管理
栄養士が関わりを持つのか課題である。今回、愛知県江南市での取り組みについて、地域包括支援セ
ンターとの連携による地域ケア推進会議の参画と利用者への栄養相談訪問、居宅療養管理指導の2 点
から報告を行う。
地域包括支援センターとの連携に関しては、地域ケア推進会議に出席しフレイルに関するスクリー
ニングの検討を行っている。江南市、江南中部地域包括支援センター、江南市保健センター、江南市
社会福祉協議会と連携を図り、地域での様々な問題に対して、栄養の観点を他職種に提言することで、
要支援者、地域の健常高齢者の重症化予防に繋げている。さらに、基本チェックリストで栄養状態や
ADL に問題がみられるケースに関しては3 ヶ月間の個別訪問を実施、食事摂取量の把握、適正エネ
ルギー量の提示、栄養での問題点を地域包括支援センターとミーティングを重ね改善方法を議論して
いる。たんぱく質摂取量が少ないなど低栄養、フレイルに陥る要因がある利用者が多いことがわかり、
今後の対応策を検討している。
居宅療養管理指導に関して、介護支援専門員から老々介護(ともに介護認定者)、独居、低所得者、
男性が介護者という、調理困難な方への訪問相談が多くなっている。そのため、簡単に調理ができる
よう助言を行う。また、調理を担うヘルパー事業所のサービス提供責任者との連携も欠かさない。近
年、人生の最終段階において在宅を選択するケースも増えており、「人が生きること、人の死につい
て」の永遠の課題を、食を通して貴重な機会を絶えず与えられている環境の中でできることを模索し
ている。
2 点の取り組みの中で、「尊厳と自立生活の支援」をいかに栄養の観点から提案できるのか、生活
環境の中で利用者、介護者を取り巻く様々な葛藤、問題点を他職種との連携は欠かすことができない。
栄養だけではない、多角的な視点からの支援が在宅ケアに求められている。事例を交えながら在宅ケ
アでの取り組みについて紹介する。

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