第19回ダノン健康栄養フォーラムより
若い女性の栄養と次世代の健康
早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 招聘研究員 / 千葉大学 客員教授
福岡 秀興 先生

近年、やせ願望が若年化しており、20代の女性では4~5人に1人が「やせ(BMI18.5以下)」という状態が続いています。その背景には、20代女性のエネルギー摂取量の減少があります。エネルギー摂取量が減るということは、それに伴い必要な栄養素の摂取も不足するということです。このことは本人のみならず、次世代にとっても望ましくない影響をもたらします。
急なダイエットと卵巣機能低下
小児くる病の増加とビタミンD
ビタミンDについては、骨とカルシウムに関係するビタミンだという印象が強いと思いますが、そればかりではありません。ビタミンDは、糖代謝や免疫系の制御、細胞分化、心臓循環器系への作用、中枢神経系への作用など重要な働きをしています。ビタミンD不足に関係するとされている疾患も、うつや統合失調症、高血圧、冠動脈疾患、筋力低下、クローン病、リウマチ性関節炎、多発性硬化症、喘息、耐糖能の低下、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症など数多くあります。
実際に、私も妊婦や褥婦のビタミンDの血中濃度を調べてみました。すると、ほとんどの方がビタミンDの濃度が極端に少なく、ビタミンD欠損症という結果でした。このような状態で授乳しても、赤ちゃんに十分なビタミンDを与えてあげることはできません。
ビタミンDは日光に当たることによって皮膚で合成されます。現在の母子手帳には日光浴についての記載がなくなっていますが、短時間で良いので、赤ちゃんの日光浴を積極的に行っていただきたいと思います。また、UVカットの化粧品を積極的に使われる女性が多いようですが、それが本当に自分の健康に良いのかどうかを真剣に考える必要があると思います。また、ビタミンDを多く含む食べ物も積極的に摂っていただくことも重要です。
「小さく産んで大きく育てる」は良いことか?
世界で行われた様々な疫学研究の結果から、小さく生まれることによって、高血圧、心臓循環器疾患、耐糖能異常、メタボリックシンドローム、骨粗鬆症、脂質異常症、神経発達異常、慢性閉塞性肺疾患、初潮・閉経年齢の早期化、SGA性低身長、妊娠合併症などのリスクが高くなるということも分かってきています。
妊娠前のBMI及び妊娠中の体重増加と子どもの出生体重との関係を調べた研究では、妊娠前のBMIが出生体重に最も大きく寄与しているという結果が出ています。妊娠中の体重増加も大事ですが、それ以上に、妊娠前の栄養状態が子どもの出生体重に大きな影響を及ぼすものだと言えます。つまり、日頃からの栄養やライフスタイルが、本人の健康と同時に、生まれてくる子どもの健康をも大きく左右する要因になるということです。しかしリスクを持って生まれても育児により、それが予防できる可能性が明らかとなってきました。それもしっかり理解して育児に励んで戴きたいと思います。
“ Will not eat, can not eat! ” という言葉があります。妊娠する前に望ましい食事習慣がなければ、妊娠中に十分食べようとしても食べられず、その実践は難しいという意味の言葉です。もちろん妊娠を契機にして栄養の重要性を考えていただくことは大事です。また若い方々は妊娠前の食生活がいかに重要であるかを認識する必要があると思います。
本人だけではなく次世代の一生の健康を決定するという意味で、女性の健康は社会全体の最重要課題です。女性が健康である事こそが、社会全てが健康になるための礎なのです。
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