メールマガジン「Nutrition News」 Vol.221
健康・栄養に関する学術情報
うつ病と腸内細菌

 

ストレス社会にあって、ストレスと上手に付き合っていきたいものです。しかし、それが上手く行かずメンタルヘルスに影響が出てしまうことも多いようです。うつ病は、慢性的なストレスを契機に発症することが多く、憂うつ気分、興味・関心の低下、思考・行動の抑制、不安・焦燥感、睡眠障害、食欲異常、自殺念慮などの症状を呈します。全世界での有病率は4.4(1)とされ、男性の罹患率は女性のおよそ2 倍です。実はうつ病と腸内細菌の研究から、腸内細菌は精神疾患における重要なプレーヤーとして位置づけられています。意外ですよね、どういうことなのでしょうか?

 

今回紹介する総説(2)では、うつ病と腸内細菌との関連について ①動物モデル ②うつ病患者の腸内細菌叢 ③想定されるメカニズム を解説しています。

  • ①動物モデル

・出生後早期に母親と一時的に隔離して育てられた動物は、成体になってからヒトの不安障害やうつ病に類似した行動異常を示すことが知られている。

・ラットの母子分離モデル(成体)では、視床下部-下垂体-副腎系の亢進、神経伝達物質であるモノアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン)の脳内での減少、炎症性サイトカインIL-6 の増加が観察された。しかし、このラットにプロバイオティクスとしてBifidobacterium infantisを投与したところ、うつ病様行動が改善、モノアミンが増加し、免疫反応が減少した(3, 4)

・マウスの母子分離モデルでもLactobacillusの減少などの腸内細菌叢の変化とともに、腸の透過性亢進や運動異常がみられたが、プロバイオティクス(Lactobacillus rhamnosusLactobacillus helveticus)の投与によって改善した(5)

・慢性浸水ストレスを与えたマウスにおいてもプロバイオティクス(Bifidobacterium longumLactobacillus helveticus の配合)が、脳の可塑性変化の異常やニューロン新生の減少、視床下部-下垂体-副腎系の亢進、腸の透過性亢進を改善した(6)


  • ②うつ病患者の腸内細菌叢

・大うつ病患者群(N43)は健常者群(N57)と比較して腸内細菌中のBifidobacteriumが有意に低下している(P012)。

・Bifidobacteriumがカットオフ値(便1 g あたり1053 個)以下の菌数だったのは大うつ病群で49%(21/43人)であったのに対し、健常者群では23%(13/57人)であった(オッズ比3.2395%信頼区間 1.38–7.54P0.010)。Lactobacillusでは、カットオフ値(便1 g あたり106.49 個)以下の菌数であったのは大うつ病群で65%(28/43人)、健常者群では42%(24/57人)であり、オッズ比2.5795%信頼区間 1.14–5.78P0.027)。すなわち、BifidobacteriumLactobacillusは共に菌数が低いとうつ病リスクが高くなる。

・大うつ病性障害患者における乳酸菌飲料、ヨーグルトなどの摂取頻度と腸内細菌の関係を調べたところ、 週に1 回未満の摂取頻度の人は週1 回以上の人と比較して腸内のBifidobacteriumの菌数が有意に低いという結果を得た。したがって、プロバイオティクスを含む食品を摂取する習慣がBifidobacteriumの菌数に影響を与える可能性が支持された。


③想定されるメカニズム(抜粋)

・腸内細菌叢の乱れによって腸の透過性が亢進して「漏れる腸(leaky gut)」となるが、BifidobacteriumLactobacillusなどの腸内細菌叢の変化は腸の透過性を左右し、これらのプロバイオティクスの投与によって透過性が回復することが報告されている。

・腸の透過性亢進は、 腸内細菌や毒素などの侵入の機会を増やすため、炎症を惹起したり(炎症性サイトカインの上昇を伴う)、毒素そのものの影響を与えたりする。

・炎症性サイトカインによる脳血液関門の破壊からの神経炎症、トリプトファンからキヌレニンへの代謝を経た興奮毒性で、うつ病発症が誘起されると考えられている(7)

 

脳-腸-腸内細菌の各々が密接に関連していることに驚かされます。腸をケアすることはメンタルヘルスにもつながりそうです。日常生活でもプロバイオティクスを摂取するといったアクションはできるかも知れませんね。今後も注目していきたいです。

なお、当財団が開催しているダノン健康栄養フォーラム(2013年 第15回)において「メンタルヘルスと栄養」という演題がありました。その要旨も併せてご覧ください。

 


参考

  1. Ferrari AJ, Charlson FJ, Norman RE, Flaxman AD, Patten SB, Vos T, Whiteford HA. The epidemiological modelling of major depressive disorder: application for the global burden of disease study 2010. PLoS One. 2013; 8: e69637.
  2. 功刀 浩. うつ病・自閉症と腸内細菌叢. 腸内細菌学雑誌. 2018;32 : 7-13.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/32/1/32_7/_pdf/-char/ja

  • 3. Desbonnet L, Garrett L, Clarke G, Bienenstock J, Dinan TG. The probiotic Bifidobacteria infantis: An assessment of potential antidepressant properties in the rat. J Psychiatr Res. 2008; 43: 164–174.
  • 4. Desbonnet L, Garrett L, Clarke G, Kiely B, Cryan JF, Dinan TG. Effects of the probiotic Bifidobacterium infantis in the maternal separation model of depression. Neuroscience. 2010; 170: 1179–1188.
  • 5. Gareau MG, Jury J, MacQueen G, Sherman PM, Perdue MH. Probiotic treatment of rat pups normalises corticosterone release and ameliorates colonic dysfunction induced by maternal separation. Gut 2007; 56: 1522–1528.
  • 6. Ait-Belgnaoui A, Colom A, Braniste V, Ramalho L, Marrot A, Cartier C, Houdeau E, Theodorou V, Tompkins T. Probiotic gut effect prevents the chronic psychological stress-induced brain activity abnormality in mice. Neurogastroenterol Motil. 2014; 26: 510–520.
  • 7. Berk M, Williams LJ, Jacka FN, O’Neil A, Pasco JA, Moylan S, Allen NB, Stuart AL, Hayley AC, Byrne ML, Maes M. So depression is an inflammatory disease, but where does the inflammation come from?BMC Med. 2013; 11: 200.

 

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