メールマガジン「Nutrition News」 Vol.204
第22回ダノン健康栄養フォーラムより
慢性腎臓病におけるたんぱく質栄養 
徳島大学大学院 医歯薬学研究部 臨床食管理学分野 教授
 竹谷 豊
 慢性腎臓病(CKD)は、たんぱく尿や糸球体濾過量の低下などの腎障害が3か月以上継続している疾患で、現在わが国では成人の8人に1人がCKDに罹患していると推定されています。CKDで問題になるのは、腎代替療法が必要になることに加えて、心血管疾患の発症リスクが高くなることです。そのためCKDでは、腎機能の低下を抑え、腎代替療法の導入を遅らせることとあわせて、心血管疾患の発症を予防することが治療の大きな目標となります。そのためには医学的な治療のみならず、栄養や運動を含めた集学的な治療が必要となり、その中でも食事管理は非常に重要です。

CKDの食事療法の基本

 

 CKDの食事療法の基本は塩分制限と低たんぱく質食であり、ガイドラインでもたんぱく質の摂取量を0.60.8g/kg/dまで減少させることが示されています。低たんぱく質食を成功させる上で大事なのが、炭水化物や脂質から十分にエネルギーを摂取することです。さらに、アミノ酸スコアを100に近づけることも大切です。日本人の現在の平均的な食事のアミノ酸スコアは100に近いと評価されていますが、たんぱく質の摂取量を減らすにあたり、たんぱく質の質もきちんと考える必要があります。

 このような適切な管理がなされない状況で低たんぱく質食を行うと、PEW(Protein Energy Wasting)と呼ばれる低栄養のリスクが高まります。PEWは、栄養不良や尿毒症、炎症、異化の亢進が重なってくるような病態を言いますが、一度このような状態になると、栄養状態が悪くなるだけでなく心血管疾患の発症リスクや死亡リスクも高まります。そのため、栄養不良を起こさないように治療をしていくことが重要なのです。

高齢患者にもたんぱく質制限を行うか?

 わが国は超高齢社会であり、75歳以上のCKD患者も珍しくありません。では、高齢のCKD患者にもたんぱく質制限が推奨されるのでしょうか?

 高齢者の場合、個人の差が非常に大きくなります。80歳でも筋肉がしっかりついている人もいれば、サルコペニアやフレイルの状態になっている人もいます。そのような人を一律に扱うわけにはいきません。患者個々の身体状況や栄養状態、身体機能、生活状況を総合的に評価し、低たんぱく質食を行うかどうかを考えていく必要があるということです。また、低たんぱく質食を実施する場合は0.60.8g/kg/dが目標にはなりますが、患者の状態を定期的に細かく評価し、必要に応じて薬剤を使用するなどして、アシドーシスや高リン血症、高カリウム血症などの管理を行う必要があります。特に、過剰なたんぱく質制限を行うとサルコペニアなどのリスクが高まります。筋肉量が減ってきているような患者では、たんぱく質制限を緩和することを考えなければいけないでしょう。

リン負荷指数の開発

 透析期の栄養管理において、たんぱく質と並んで問題になるのがリンです。腎不全では腎臓からのリンの排泄量が低下するため、リン摂取量が多いと体内にリンが貯留します。それにより、ホルモン異常、骨代謝異常、血管の石灰化などの全身性の異常が見られ、骨折、心血管疾患、最終的には死亡のリスクも高まります。

 リンの摂取量とたんぱく質の摂取量の間には非常に強い正の相関があります。つまり、たんぱく質摂取量を制限することは、リン摂取量を制限することにもなるのです。しかし、透析期では、透析によるアミノ酸の損失などを考慮してたんぱく質の摂取量を増やさなければいけません。そのため、たんぱく質を摂りつつリンを制限するという栄養管理が必要になってきます。その方法のひとつが「リン/たんぱく質比」に注目した栄養管理です。例えば、卵白や鶏ひき肉はリン/たんぱく質比が少ない食品です。一方、乳製品、肉や魚の加工食品などはリン/たんぱく質比が高いとされています。豆腐も比較的リン/たんぱく質比が高い食品です。このように、リンとたんぱく質の含有量の比率を見ることで、たんぱく質を摂取しながらリンを制限することができます。

 しかし、私たちは、血中リンに及ぼすインパクトは食品によって異なるのではないかと考えました。そこで、グリセミックインデックスの考え方に基づき、リン酸水容液を100とした時の各食品の血清リン濃度上昇効果を数値化した「リン負荷指数」を開発しました。すると、リン/たんぱく質比では値が比較的高かった豆腐は、リン負荷指数が19.6と非常に低い(血清リン酸濃度がほとんど上昇しない)ことが分かりました。一方、乳製品や動物性食品は比較的リン負荷指数が高く、このような食品は血清リン濃度が上昇しやすいことが分かります。しかし、同じ動物性食品でも、豚もも肉(53.9)と牛乳(108.3)ではリン負荷指数に違いがありますし、植物性食品でも大豆(33.1)とブロッコリー(65.1)でも値に差があることが分かります。

 このように、一律に食品成分表から算出するだけでは分からない違いが、実際にヒトに投与することで見えてくるのです。私たちは、このようなリンの影響の評価法が「たんぱく質を摂りつつリンを制限する」を実現していくためのひとつのツールになるのではないかと期待しています。

 

講演ダイジェスト動画


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