メールマガジン「Nutrition News」 Vol.130
2013年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
腸内細菌由来ストレスタンパク質の免疫制御機能の解明と乳製品による食品科学的応用
京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻 食環境学分野 

谷 史人 先生
  腸管はヒトがもつ最大の免疫器官とも言われており、パイエル板(PP)、粘膜固有層(LP)や腸間膜リンパ節(MLN)などの腸管関連リンパ組織(GALT)に多くの免疫細胞が存在します。消化管には、安全で無害な栄養物を取り入れるほかに疾病につながる病原菌なども侵入してくるので、取り込まれた物質について安全か危険かを的確かつ迅速に識別しなければなりません。腸管の恒常性維持は、食物成分や腸内細菌などのさまざまな管腔内物質と腸管上皮細胞や免疫細胞との相互作用で調節されており、腸管上皮細胞と免疫細胞間での連携も非常に重要です。近年、腸管粘膜免疫系において上皮細胞との関わりが特に注目されているのが、抗原提示細胞の一種である樹状細胞です。
  一方、免疫系に作用する腸管内因子の重要なものにプロバイオティクスが知られています。Bifidobacterium、Lactobacillus sp. などのプロバイオティクスは小腸での炎症を防ぐ作用を期待されています。マウス結腸由来上皮細胞株にある種のプロバイオティクスを与えると、上皮細胞中のストレスタンパク質 (Stress protein あるいは、熱ショックタンパク質 Heat shock protein (Hsp))の発現が亢進されるという報告があります。ストレスタンパク質Hspは、生物進化の過程で獲得した生体防御に欠かせないハウスキーピングなタンパク質です。近年、Hspには、免疫応答の引き金となる抗原としての機能だけでなく、炎症による組織の損傷を防止することも見出されてきており、炎症性疾患のコントロールにおける重要性が指摘されています。生体防御に必須の物質であるが故に、生物間の情報交換の物質として広く利用してきた可能性も考えられることを想定し、本研究では、腸内細菌のHspに着眼して、それが消化管内の恒常性維持に果たす役割について腸管上皮細胞と粘膜組織の免疫細胞に及ぼす影響を考察しました。
 

要旨

  腸管内に共生する腸内細菌やそれに由来する産物が消化管内の恒常性維持に果たす役割について、ストレスタンパク質 (Stress protein あるいは、熱ショックタンパク質 Heat shock protein (Hsp)) の腸管上皮細胞と粘膜組織の免疫細胞に及ぼす影響を通して考察した。

  1. 腸管上皮細胞と樹状細胞の相互作用を研究するためにトランスウェル共培養系が頻繁に用いられるが、通常の共培養系では上皮細胞と免疫細胞が接触していない。上皮細胞が樹状細胞 (DCs) に制御性を付与することを明らかにするために接触 (contiguous) 共培養系を構築した。上皮細胞との接触によってDCsにCD103抗原の発現が促され、ビフィズス菌を添加した際にはCD103抗原と共刺激分子であるCD86抗原の発現はともに低下する傾向が観察された。
  2.  Hsp70 familyのタンパク質を用いて、末梢性の粘膜組織と全身性の抗原提示細胞でHspの識別において差がみられるのかについて調べた。マウス、ホウレンソウ、大腸菌、乳酸菌由来のHspの識別について調べたところ、マクロファージ (MΦ) とDCsの間ではHsp70の認識にあまり差はなかった。いずれの細胞群に対しても、マウスとホウレンソウ由来の真核生物由来Hsp70は強く結合したが、大腸菌と乳酸菌の原核生物由来Hsp70は結合性を示さなかった。しかし、骨髄由来樹状細胞 (BMDCs) や腹腔マクロファージ (ipMΦ) の全身性と粘膜固有層の末梢性の抗原提示細胞では結合様式が明らかに異なり、粘膜組織由来の抗原提示細胞ではHspとの結合能が顕著に低下していた。
  3. ビフィズス菌由来のHsp60が制御的環境のもとで制御性T細胞 (regulatory T cells: Tregs) の産生を誘導するのかについて検討したところ、BL60は、抗原提示細胞に抗原として取り込まれプロセシングされた後、制御的環境のもとで制御性T細胞 (regulatory T cells: Tregs) の産生誘導にはたらくエピトープを含んでいることを見出した。
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