2013年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
エンドトキシンによる全身性慢性炎症の低減作用によるプロバイオティクスの新しい生活習慣病予防法の検討
横浜市立大学附属病院 肝胆膵消化器病学
中島 淳 先生,小川 祐二 先生,今城 健人 先生
一方、プロバイオティクスは以前より腸管からの血液中へ流入するエンドトキシン減少作用があることが知られていますが、我々はLactobacillus plantarum、Lactobacillus caseiなどが血中レプチンの低下作用があることを確認しています。以上の知見から、プロバイオティクスは血清エンドトキシンを低下させるのみならず血清レプチンを低下させることによって、肥満による全身臓器でのエンドトキシン感受性を低下させるのではないかと考えるに至りました。
要旨
NAFLDは肥満や糖尿病患者にしばしば認められ、そのうち約2割がNASHへと進行する生活習慣病の一種である。一方、NAFLDからNASHへ進展する因子の一つに腸内細菌のエンドトキシンの関与が疑われてきた。我々はNAFLDからNASHへの進展には、肥満による腸管由来のエンドトキシン量の増加に加え、肥満により分泌が増加しているレプチンによりLPS(エンドトキシン)の受容体であるTLR4(Toll-like receptor4)の共受容体とされるCD14の発現が肝臓において亢進することで腸内細菌のエンドトキシン感受性が亢進することが重要である可能性を報告した。その後の研究で、微量のエンドトキシンが肝臓からの脂質排泄を障害することで余剰な脂を蓄積し、肝病態を悪化させることも示した。さらに、肥満条件では高レプチン血症により全身のすべての臓器でCD14の発現が亢進していることが明らかになり、肥満で見られるエンドトキシンに対する応答性亢進は肝臓のみならず全臓器普遍的な現象であることがわかった。この結果は、糖尿病や動脈硬化などの肥満に伴う生活習慣病の発症増悪は、腸管からの微量エンドトキシン侵入増加に加え、レプチン増加によりエンドトキシンに対する感受性が亢進して起こることを示しており、これまでにない生活習慣病の新しいメカニズムを示唆するものである。今回の研究は、血中レプチンの低下作用が報告されているプロバイオティクスが、肥満および血中エンドトキシン増加により増悪するNASHのみならず、動脈硬化性疾患、糖尿病などの生活習慣病の予防に役立つ可能性を示したきわめて独創的な研究である。