メールマガジン「Nutrition News」 Vol.121
第16回ダノン健康栄養フォーラムより
乳製品と腸管免疫
東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科
教授 清水誠 先生
 我々を取り巻く環境には多様な異物が存在し、生体はそれに曝されています。その異物を排除するのが「免疫系」です。体内に病原体などの異物が侵入すると、マクロファージや樹状細胞などがその存在を認識し、これを攻撃して処分します。これを「自然免疫」と呼んでいます。一方で、マクロファージや樹状細胞などは、異物の情報を獲得すると、その情報を免疫系に提供(抗原提示)します。その情報をT細胞が受容すると、B細胞に特異的な指令を送り、B細胞はそれにしたがって抗体を作り、入ってきた異物を攻撃して処分します。この一連の流れは「獲得免疫」と呼ばれます(図1)。血小板や赤血球、白血球内の様々な細胞(マクロファージやT細胞など)は「免疫担当細胞」として働いています。

図1 免疫系による異物(非自己)の排除
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免疫系と腸管
 
 近年、腸管が非常に大きな免疫系であることが分かってきました。腸管免疫系は、病原細菌やウィルスなどの危険なものが入ってきた場合には、それを排除する一方で、有用微生物や食品タンパク質など安全なものは排除せずに受諾するという、相反した性質を持っていることが特徴です。特に、安全なものを受諾するシステムを「経口免疫寛容」と呼んでおり、これが破綻するとアレルギーや自己免疫疾患が起こると言われています。
 また、腸管は、有害物に対応できるT細胞やB細胞などの免疫担当細胞を育て、全身に供給するという役割も果たしています。腸というのは、我々が生きていく上で非常に重要で、巧みなシステムを持っている臓器なのです。
 
腸管免疫系と乳製品  
 
 小腸下部から大腸に至る腸内には、約100兆個、重さにして1~1.5kgほどの腸内細菌が生息しており、免疫系の制御に大きな役割を果たしています。腸内に、黄色ブドウ状球菌やウェルシュ菌などのいわゆる「悪玉菌」が多いような状況下では、腐敗物や発がん物質、老化物質、毒素を生成し、下痢や便秘、自己免疫疾患、免疫力の低下を起こし、場合によっては発がんにつながることもあります。一方、乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる「善玉菌」が多いと、消化吸収補助、有害菌増殖の阻止、免疫機能の調節などの良い状況を生み出します。つまり、いかに腸内細菌叢を健全に保つかが健康増進において重要であると言えます。
 「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」は、腸内細菌叢を介して腸管免疫系に影響するものの代表です。プロバイオティクスは、生きた乳酸菌やビフィズス菌などの細菌類のことです。プロバイオティクスの摂取によって免疫の状態が良くなるということは、ヒト試験でも明らかになってきています。ヨーグルトなどの発酵乳製品でも摂取することができる他、トクホの中にも、整腸作用の保健機能を持ったいくつものプロバイオティクス製品が出ています。
 プレバイオティクスは、腸内で善玉菌のエサとなることでその増殖を促し、腸内細菌叢を改善するもので、オリゴ糖や食物繊維などが挙げられます。中でも、乳果オリゴ糖やガラクトオリゴ糖などは牛乳から見出されたものです。
 善玉菌には、酢酸やプロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸の産生によって腸管内を酸性化し、バリア能を向上したり、有害菌の増殖を防いで腸管の感染を阻止したりする働きもあります。また、酪酸には、大腸細胞のエネルギー源となったり、経口免疫寛容に関わる制御性T細胞を誘導したりするなどの性質もみつかってきています。その他にも、最近では、肥満、糖尿病、動脈硬化、肝臓がん、脳の発達、ストレスなどに腸内細菌が関わっているという知見が得られています。かつて、腸内細菌の研究は食品関係の研究者を中心に行われていました。しかし、今では多くの医学者も研究に携わっており、この分野の研究は極めて急速に進んでいます。

 牛乳の成分には、腸内細菌叢を介さず、腸管免疫系に直接影響する成分もあります。例えば、乳清タンパク質は、抗酸化成分であるグルタチオンの原料になり、酸化ストレスに弱い免疫細胞を活性化してくれます。ラクトフェリンが様々な免疫作用を持っていることも、証明されつつあります。牛乳のタンパク質が分解されるときに生じるペプチドの中にも免疫賦活作用を持つものが見つかってきています。しかし、これらはまだ基礎研究の段階であり、今後の研究が期待されています。

 我々の体は、腸管免疫系という非常に優れたシステムによって守られています。そして、それには腸内細菌が深く関わっています。乳製品は、腸内細菌叢を改善することで腸管免疫を健全にし、あるいは、腸管細胞に直接作用して免疫系を改善するという意味で、腸管免疫系というシステムの維持にとても重要な役割を果たす食品の一つであると考えて良いのではないでしょうか。
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