2012/11/05

Vol.88(2) 2010年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告 「食品成分による消化吸収関連遺伝子発現調節を介した食後高血糖抑制とその応用に関する研究」

メールマガジン「Nutrition News」 Vol.88
2010年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
食品成分による消化吸収関連遺伝子発現調節を介した食後高血糖抑制とその応用に関する研究
静岡県立大学食品栄養科学部
合田 敏尚 先生

 糖尿病のような代謝性疾患のリスクを低減させる食生活を提案するためには、三大栄養素による摂取エネルギーの総量とエネルギー比率を考慮するとともに、炭水化物と脂質の組成を考慮することが必要と考えられますが、この点を実証した研究はほとんどありません。糖尿病の発症の前段階では、食後高血糖がみられ、これがインスリン過剰分泌および肥満をもたらし、インスリン抵抗性を増大させますので、食後高血糖を抑制する食事組成を検討する必要があります。

 著者はこれまで糖質の消化吸収にかかわる膜消化酵素や吸収担体の遺伝子発現調節機構を検討する中で、これらの遺伝子発現が糖質の消化・吸収速度を変動させる食事条件によって転写のレベルで制御を受けることを明らかにしました。たとえば、難消化性デンプンのように消化速度が遅くグリセミックインデックス(GI)の低い糖質あるいはα-グルコシダーゼ阻害剤を添加した飼料をラットに摂取させると、小腸上部における糖質消化吸収関連遺伝子の発現が低下しました。すなわち、日常的に摂取する食事の組成を変えることによって、消化管を食後高血糖の起こしにくい状態に維持できる可能性が考えられました。

 そこで、本研究では、日本人における通常の食品構成の中で、GI に寄与する食品群および個別食品を検索して日本食型低GI 食を設計し、その低GI 食を被験者に摂取させ、低GI 食の摂取によって、代謝性疾患リスクの指標が変化するかを検討しました。さらに、食後の血糖上昇に関わる食事要因によってもたらされる代謝性疾患リスクの変化を感度よく検出できる炎症評価指標を血液成分の中から探索し、健診受診者を対象にしてその妥当性を検討しました。

要旨

 本研究では、いも類と雑豆類を副菜として活用した低GI 惣菜を設計し、このものを用いて、軽度肥満者を含む健常な成人男性を対象として5週間の低GI 食介入試験を行った(介入群22名、対照群17 名)。低GI 惣菜の摂取により、介入群の体重、腹囲、BMI は減少し(P<0.01)、血中HbA1c値が低下する傾向を示すとともに、血漿γ-GTP活性が有意に低下した(P<0.05)。それゆえ、低GI食の継続的な摂取により、内臓脂肪が減少し、耐糖能の改善および炎症の抑制が起こることが推察された。食後の血糖上昇の履歴を予測する炎症評価指標を末梢血白血球に発現しているmRNAの中から探索したところ、IL-1βのmRNA発現量が感度のよい指標であった。健診受診者男性を対象とした横断研究から、血漿IL-1β濃度は、食べる速さおよび血漿γ-GTP活性と強い関連性があることが示された。以上のことから、低GI食の摂取は、食後の血糖上昇を抑制することにより、炎症および酸化傷害の初発反応を抑制し、代謝性疾患リスクの低減に寄与する可能性が示唆された。

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