メールマガジン「Nutrition News」 Vol.263 2025年10月1日発行
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サステナブルな水産物を知る「認証マーク」とは?
みなさんは普段、購入する食品をどのような視点で選んでいますか? その日の気分、旬、値段、栄養成分表示、賞味(消費)期限、フェアトレードマークの有無など、人それぞれだと思います。食品のパッケージには様々な情報が記載されており、「認証マーク」もそのひとつです。「有機JAS」など農産物関連の認証、持続可能な農業に取り組む農場の認証など、認証マークはさまざまありますが、今回は、水産物に関わる代表的な認証マークを紹介します。
背景
世界の人口は2050年までに100億人に達するといわれています。人口が増加するということは食料に対する需要も増えるということであり、それは水産物においても例外ではありません。魚は、卵を産んで育つことで自然と増えていきますが、魚が増える以上に漁獲量が増えたら、どうなるでしょうか。また、過剰漁獲に加えて水産資源の生息域への変化を引き起こしている気候変動の影響も深刻です。
さらに、天然水産物の漁獲を大幅に増やすことは難しく、養殖の水産物を増やすことによって水産物全体の需要を満たすことが期待されています。
持続可能な漁業・養殖業は、海を守り、そして貴重なたんぱく質源となる水産物を確保するためにもとても重要なのです。
認証マーク
1. 海のエコラベル「MSC認証」
MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証は、ロンドンに本部をおく国際的非営利団体によるもので、水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物を認証するものです。漁業者に対する「MSC漁業認証」と水産物の水揚げ以降のサプライチェーンに対する「MSC CoC認証」の2つがあります。

MSC漁業認証を取得するための基準は?
MSC漁業認証を取得するためには、次の3つの原則に基づく厳格な認証規格を満たしていることが必要です(認証取得のためには第三者審査機関による審査が行われます)。
① 資源の持続可能性
過剰な漁獲を行わず資源を枯渇させないこと。枯渇した資源については回復を論証できる方法で漁業を行うこと。
② 漁業が生態系に与える影響
漁業が依存する生態系の構造、多様性、生産力等を維持できる形で漁業を行うこと。
③ 漁業の管理システム
原則1、2を満たすための地域や国内、国際的なルールを尊重した管理システムを有すること。また、持続可能な資源利用を行うための制度や体制を有すること。
さらに、MSC漁業認証を受けている水産物は、非認証の水産物と混ざることがないように、「MSC CoC認証」を取得した事業者によって製造・流通されます。この仕組みによって私たちは安心して認証を受けた水産物を選ぶことができるのです。
2. 責任ある養殖により生産された水産物の証「ASC認証」
ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証とは、環境と社会に配慮した責任ある養殖により生産された水産物を対象とする認証制度です。


ASC認証を取得するための基準は?
ASC認証も国際的非営利団体によるもので、「ASC 飼料認証」「ASC 養殖場認証」「CoC 認証」の3つによって構成されており、基準を満たした水産物が非認証の水産物と混ざることなく確実に私たち消費者の元に届く仕組みがあります。
ASCの認証制度における7つの原則は以下の通りです。
- 国および地域の法律および規制への準拠
- 自然生息地、地域の生物多様性および生態系の保全
- 野生個体群の多様性の維持
- 水資源および水質の保全
- 飼料およびその他の資源の責任ある利用
- 適切な魚病管理、抗生物質や化学物質の管理と責任ある使用
- 地域社会に対する責任と適切な労働環境
このように、ASC認証を取得することは、水産養殖業の課題でもある海洋環境や海洋資源への影響、労働条件や地域とのかかわりなどの問題を解決し、養殖業を次世代へとつなげる役割もあります。
3. MEL(マリン・エコラベル・ジャパン)認証
MEL(Marine Eco-Label Japan)は日本の非営利団体である一般社団法人MEL協議会が運営する、国際的に認められた日本発の水産エコラベル認証制度です。

MEL認証を取得するための基準は?
MELの認証制度には、「生産段階(漁業)」「生産段階(養殖)」「流通加工段階(CoC)」の3種類があり、水産資源の持続性と環境に配慮した事業者をISOに則った製品認証機関が審査し認証します。
生産段階認証(漁業):FAOのガイドラインに準拠
① 確立された実効ある漁業管理制度の下で、漁業が行われていること
② 対象資源が持続的に利用される水準を維持していること
③ 海洋生態系の保全に適切な措置が取られていること
生産段階認証(養殖):FAOのガイドラインに準拠
① 養殖生産活動において社会的責任を着実に果たすこと
② 養殖対象水産動物の衛生福祉が配慮されていること
③ 生産物の食品安全が確保される養殖が営まれていること
④ 環境に配慮された養殖が営まれていること
流通加工段階(CoC)認証
① 申請者は関係する国内法を遵守していること
② トレーサビリティが確保されていること
③ 対象水産物以外の水産物の混入、混在が防止される管理体制があること
④ ロゴマーク使用・管理規程に基づきロゴマークを使用していること
MELは、豊かな海を守りながら日本の水産業と魚食文化の持続的な発展に寄与することを目指すとともに、日本の漁業者や加工業者の多くが中小企業であるという実情から、認証取得にかかる経済的負担をできる限り抑制するということも使命としています。

MSC認証、ASC認証やMEL認証はSDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」等の達成につながる認証マークです。どの認証マークも私たち人間の食欲を満たすことだけを考えるのではなく、水産資源とそれを取り巻く海洋環境を守り、これからも持続できるようにと考え・実践されたものにだけ与えられます。
日々、当たり前のように行っている「買い物」という行動は私たちの未来をつくるための「投票」でもあります。票が多ければその商品は需要があると認識され、これからも売り場に並び続ける可能性が高まるでしょう。認証マークの存在を知ること、そして認証マークのついた商品を選ぶことは、手に取ったものの背景を知り、より良い未来へつながるものかどうかを見極めるためにも役立ちます。物が溢れ、簡単に手に入る現代だからこそ、本当に必要なものを見極める力を備えて、これからも地球で心地よく生きるための1歩を踏み出してみませんか。
参考
Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)
Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)
https://asc-aqua.org/wp-content/uploads/sites/9/2024/04/2024-ASC-Brochure.pdf
一般社団法人MEL協議会