メールマガジン「Nutrition News」Vol.263 2025年10月1日発行
健康・栄養に関する学術情報
「乳製品は健康に良い?-日本人を対象にした研究から-」
乳製品を食べると健康に良いのでしょうか?
これまでの日本では、乳製品には大事な栄養素が多いことから健康に良いと考えたり、欧米の研究報告では健康に悪いとするものもあったりと、一致していませんでした。どちらが正しいのでしょうか?国立がん研究センターをはじめとする研究グループによる「多目的コホート研究(JPHC研究)牛乳・乳製品摂取と死亡のリスクとの関連について」は、そんな疑問に答えてくれます。どんな結果だったか、見てみましょう。
この研究では、日本人約9万人を長期間追跡し、乳製品の摂取と死亡リスクの関係を調べた。1995年または1998年に追跡を開始し2018年に終了した。
乳製品の総摂取量は、食物摂取頻度調査票の回答結果から牛乳、チーズ、発酵乳製品、紅茶・コーヒーに入れた牛乳の合計とし、牛乳、チーズ、発酵乳製品の各種類別でも解析した。対象者を摂取量の多い少ないによって4つのグループに分けた。チーズと発酵乳製品については、全く食べないグループと、食べる人を摂取量によって3つのグループに分け、計4つのグループとした。
追跡期間中(平均19.3年)に、男性14,211人、女性9,547人が死亡した。そのうち、全がん死亡は男性で5,365人、女性で3,076人、循環器疾患死亡は男性で3,379人、女性で2,582人だった。
乳製品の摂取と死亡リスクには次のような関係が見られた。
【乳製品】
男性では、乳製品を多く摂っていたグループで、最も摂取量が少ないグループと比較して、全体の死亡リスクおよび循環器疾患による死亡リスクが低かった。
(最も低い死亡リスクと摂取量。以下同様)

女性では有意な関連はみられなかった。
種類別の摂取量について、男性では下記の関連がみられた。
【牛乳】

【チーズ】

【発酵乳製品】

女性でも牛乳摂取量が多い群で循環器疾患死亡リスクが低い傾向にあることや、発酵乳製品摂取量が多い群で全死亡リスクが低い傾向がみられたが、いずれも有意な差ではなかった。女性では、男性よりも喫煙者や過度の飲酒者が少ないなど、健康的な生活習慣の人が多いことによって、乳製品の摂取と死亡リスクとの関連がみえにくかった可能性がある。
乳製品の摂取量が多い欧米の先行研究では、乳製品の摂取と死亡リスクは関連がない、または死亡リスクが高くなることも報告されており、結果が一貫していない。日本人の乳製品の摂取量は欧米人と比べて少なく、日本人を対象とした先行研究では、乳製品の摂取量が多いと全死亡や循環器疾患の死亡リスクが低下することが報告されており、本研究でも同様の結果だった。
結論として今回の調査では、男性では、乳製品の摂取量が多いグループで、全死亡と循環器疾患の死亡リスクが低いことが明らかになった。
筆者らは、欧米での先行研究における乳製品の摂取量よりも日本の方が少ないことに注目しています。参照した欧米での先行研究を例にすると、最も多く牛乳を摂取したグループの摂取量は、スェーデンの研究(1)で600g/日以上、アメリカの研究(2)で1,008mLとなっているのに対し、本研究では男性で272.8g/日、女性で305.4g/日でした。また、国連の食糧・農業機関は2010年に、年間の一人当たり牛乳消費量は、スェーデンで231.2㎏、アメリカで218.3㎏に対し日本で46.8㎏だったと報告しています(3)。さらに、世界5大陸を対象とした牛乳・乳製品摂取量による健康への影響を調べた研究(4)で、地域ごとの平均摂取量は、ヨーロッパ・北米では368.4g/日、南米で264.5g/日、アフリカで90.5g/日、中東で299.7g/日、南アジアで147.2g/日、東南アジアで36.7g/日、中国で101.7g/日でした。
令和5年国民健康・栄養調査結果では,20歳以上の成人4,472名の牛乳・乳製品の平均摂取量108.3g(SD133.9)と、食事バランスガイドで推奨する1日当り2SV(牛乳またはヨーグルトならば1日約200g)に比べて約半分という少ない現状にあります。
牛乳・乳製品摂取量の少ない日本では、牛乳・乳製品を多めに摂ると健康への好影響があり、摂取量の多い地域とは異なった結果が得られました。
高齢化とフレイルの問題が際立つ中で骨の健康を支えるカルシウムの良質な供給源になる、たんぱく質、脂肪、ミネラル、ビタミンなどが豊富だということに加えて、男性で死亡リスクが低くなるという研究結果から、乳製品を適量摂取することが推奨されます。
詳細は下記論文をご参照ください。
- Ge S, Zha L, Sobue T, Kitamura T, Iso H, Ishihara J, Kito K, Iwasaki M, Inoue M, Yamaji T, Tsugane S, Sawada N. Associations between dairy intake and mortality due to all-cause and cardiovascular disease: the Japan Public Health Center-based prospective study. Eur J Nutr. 2023 Aug;62(5):2087-2104.
本論文はオンライン公開されており無料で閲覧できます。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10349701
- 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
多目的コホート研究(JPHC Study)乳製品摂取と死亡のリスクとの関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/9163.html
参考文献
(1) Michaelsson K, Wolk A, Langenskiold S, Basu S, Warensjo Lemming E, Melhus H, Byberg L (2014) Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies. BMJ 349:g6015. https:// doi. org/ 10. 1136/ bmj. g6015
(2) Ding M, Li J, Qi L, Ellervik C, Zhang X, Manson JE, Stampfer M, Chavarro JE, Rexrode KM, raft P, Chasman D, Willett WC, Hu FB (2019) Associations of dairy intake with risk of mortality in women and men: three prospective cohort studies. BMJ 367:l6204. https:// doi. org/ 10. 1136/ bmj. l6204
(3) Food Balances (2010-) in FAO statistical databases (Food and Agriculture Organization of the United Nations). (2010-). https://www. fao. org/ faost at/ en/# data/ FBS. Accessed 20 Mar 2023
(4) Dehghan M, Mente A, Rangarajan S, Sheridan P, Mohan V, Iqbal R, Gupta R, Lear S, Wentzel-Viljoen E, Avezum A, Lopez-Jaramillo P, Mony P, Varma RP, Kumar R, Chifamba J, Alhabib KF, Mohammadifard N, Oguz A, Lanas F, Rozanska D, Bostrom KB, Yusoff K, Tsolkile LP, Dans A, Yusufali A, Orlandini A, Poirier P, Khatib R, Hu B, Wei L, Yin L, Deeraili A, Yeates K, Yusuf R, Ismail N, Mozaffarian D, Teo K, Anand SS, Yusuf S (2018) Association of dairy intake with cardiovascular disease and mortality in 21 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study. The Lancet 392(10161):2288–2297. https:// doi. org/10. 1016/ s0140- 6736(18) 31812-9
広島大学 学術・社会連携室 未来共創科学研究本部 研究戦略部 研究戦略推進部門
西田 聡 筆