メールマガジン「Nutrition News」 Vol.247 2024年6月3日発行
「人工知能が拓くヘルスケアの個別化アプローチと標準化アプローチ」
東京大学大学院 医学系研究科 糖尿病・代謝内科
山田 朋英
【要旨】
本研究は人工知能の技術を用いて、医療(ヘルスケア)の諸問題を個別化アプローチと標準化アプローチの2つの側面から展開し、最終的に2つのアプローチを融合させるという新しい概念の提唱と実現化を目標とするプロジェクトである。既存の患者情報を用いた生活習慣病発症リスクモデルの場合、将来的な発症リスクが示されたとしても、介入行為として提案されるのは、発症リスクの高低にかかわらず、健康的な運動や食事などの生活習慣の遵守のみであることから、個人レベルでの行動変容にはつながらない可能性が高く、費用対効果も低いことが問題であり、個別化アプローチの研究が必要であった。本研究では日本人のコホートデータより、ヨーグルト摂取によって予後が改善する個人の抽出を試みた。また、臨床ガイドラインの礎となるシステマティックレビュー・メタアナリシスのレビュープロセスには平均で2-3年の時間と多くの人手がかかり(コクラン)、日々発表される最新の臨床試験の結果を反映できないことや、文献の抽出漏れ・論文の質的評価・解析の恣意性・データ抽出時のエラーなどが問題であり、標準化アプローチの研究が必要だった。人工知能による臨床エビデンスの統合と体系化を実現するため、各個人の生活情報や他のバイオマーカーなどの膨大な個人情報から、人工知能を用いて個別化アプローチと標準化アプローチの側面から統合解析を進めていく。