「急須でいれたお茶、飲んでいますか?」
日本の唱歌「茶摘み」に「夏も近づく 八十八夜」という一節があります。この“八十八夜”は季節の移り変わりの目安を表す雑節の1つで、立春から数えて88日目を指します。2023年の場合、立春が2月4日でしたので、5月2日が八十八夜にあたります。実際の茶摘みの時期は産地によって異なりますが、俗に、八十八夜に摘んだお茶を飲むと長生きをすると言われています。
また、国連では、世界各国でのお茶に関する長い歴史と深い文化的・経済的意義を認識し、2019年に、5月21日を「国際お茶の日」と宣言しています。
5月は、お茶に関連の深い月ともいえるかもしれません。
「緑茶」「紅茶」「ウーロン茶」違いは何?
私たちの身の回りには、様々な原材料から作られたお茶があります。その中で、緑茶、紅茶、ウーロン茶はそれぞれ色も味わいも異なりますが、同じツバキ科の茶樹(学名:カメリア シネンシス)からできるお茶です。その違いは酸化酵素による発酵の有無によって生じます。“発酵茶”である紅茶は、茶葉を十分に発酵させることで美しい赤色を呈します。一方、緑茶は“不発酵茶”と呼ばれ、茶葉を加熱することで酵素を失活させるため、茶葉の持つ緑色が保たれます。その中間にあるのが、発酵を途中でやめて作る“半発酵茶”のウーロン茶です。その発酵度は約15~約70%と様々で、発酵度が低いほど緑茶に近く、高いほど紅茶に近い風味を呈します。
最近では、“和紅茶”などと呼ばれる国産の茶葉を使用した紅茶も広く流通していますが、私たち日本人にとってなじみ深いのは緑茶(主に煎茶)ではないでしょうか。
日本において、一般庶民が飲料としてお茶を飲むようになったのは江戸時代頃と考えられています。しかし、それは加熱処理した茶葉を乾燥させただけの赤黒い色をしたお茶で、味もあまり良いものではなかったといいます。そのような中、蒸した茶葉を手揉みをしながら乾燥させる“青製煎茶製法”が開発され、今のような緑色の味わい深いお茶が飲まれるようになりました。この製法を生み出したとされる宇治の永谷宗円(ながたに そうえん)は煎茶の祖ともいわれています。
進む”急須離れ”
近年では、緑茶は健康効果の面からも注目されています。中でも、緑茶の苦渋みのもとであるカテキンには、コレステロール低下作用、体脂肪低減作用などの機能性があることが明らかにされ、それらに着目した特定保健用食品や機能性表示食品も数多く販売されています。そのほかにも、ビタミンC、ビタミンB2、テアニンなどの成分が含まれる緑茶には、抗酸化作用、抗菌作用、ストレス解消作用などの様々な健康効果があるとされ、緑茶を習慣的に飲む人では死亡リスクが低下するなどの研究結果も報告されています。
しかし、緑茶の消費動向を見てみると、リーフ茶の消費は近年減少傾向にあります。その背景には、茶飲料の消費の増加があると考えられます。総務省の家計調査によると、リーフ茶と茶飲料の1世帯あたりの年間支出金額は約11,000円で近年横ばいとなっていますが、その内訳は、平成19年以降、茶飲料の消費支出額がリーフ茶の消費支出額を上回る状態が続いています。ペットボトル入りのお茶などが広く普及し、手軽にお茶を楽しめるようになった一方で、急須でお茶をいれて飲む習慣は徐々に失われつつあるともいえるでしょう。
農林水産省「茶をめぐる情勢(令和5年3月時点)」より
お茶の魅力を広く伝える取組
新型コロナウイルスの流行も、お茶業界に大きな打撃を与えました。外出自粛により新茶イベントが中止になったり、観光や葬儀用などの需要が減少したりしたためです。農林水産省では、令和3年より「日本茶と暮らそうプロジェクト」を開始し、お茶の消費拡大に向けてSNS等を通じて茶産地やお茶の魅力を発信するなどの取組を進めています。
また、お茶の消費量減少は特に若い世代において顕著であることから、農林水産省と茶業関係者の連携のもと、子どもの頃からお茶に親しむ習慣を育むため、学校教育現場における茶を活用した食育(茶育)を推進しています。
ペットボトル入りのお茶は、何といってもその手軽さが魅力です。一方で、急須でいれるお茶には、茶葉の種類や量、お湯の温度、浸出時間などによって異なる味わいを楽しめるなどの奥深さがあります。さらに、飲み終わった後の茶殻は、掃除に活用したり消臭剤として利用したりすることもできます。また、茶葉に含まれる栄養成分を丸ごと摂ることのできる茶殻レシピなども数多く紹介されています。
その時の気分やシーンによって様々な楽しみ方ができるお茶で、“ほっと一息”しませんか?
参考
お茶のページ(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/ocha.html#chaiku
日本カテキン学会HP