シンポジウム

13arai座長 
東京農業大学総合研究所
客員教授
荒井 綜一先生


13kato1.「時間栄養学から健康を科学する」

県立広島大学人間文化学部健康科学科
教授
加藤 秀夫先生

からだのリズムは、体温や血圧、睡眠、運動などの生命活動を始め、心と身体の健康を管理している司令塔であり、時々刻々と移り変わる生活環境の周期的な変化、つまり生活リズムに適応するための自律的な予知機能を備えている。体温や栄養素の代謝など生体の状態を単に一定に保つだけのホメオスタシス(恒常性維持機構)とは違った生体リズムは健康・栄養管理だけでなく、病気の予防や治療にも応用されている。からだのリズムは生活環境に適応するために形成され、一旦形成されると、たとえ急激な環境変化があっても数日間は維持されている。1日ぐらい徹夜をして生活リズムが乱れてもからだのリズムは自主管理で守られている仕組みになっている。

ラットに毎日一定の時間帯に栄養液を経口的に与えると、血中副腎皮質ホルモンの日内リズムは摂食時間に対応して発現するのに、同量の栄養液を同時間帯に中心静脈内に投与すると日内リズムが消失した。血中副腎皮質ホルモンのリズム形成には口から摂取する食餌の栄養素(蛋白質・アミノ酸)と食餌を感知する小腸上部(空腸)が関与している。この事実がヒトにもあてはまるか否かを検討し、類似の結果が得られた。内分泌・代謝の要である血中副腎皮質ホルモンの日周リズムは明暗サイクルよりは摂食サイクルに依存しているだけでなく、経口摂取も重要であることをヒトとラットで明確にした。最近、疾病や加齢が原因で飲食物の咀嚼や飲み込みが困難になっている嚥下障害者に口からの摂取が可能な嚥下食品の開発や投与技術が進み、口からの栄養摂取がよりクローズアップされている。

副腎皮質ホルモンの血中レベルが高い摂食予定時刻に、摂食するとヒラメ筋グリコーゲンは上昇し、典型的な日内リズムが認められた。しかし、副腎皮質を摘出するとこのホルモンリズムが消失した。肝臓グリコーゲンはヒラメ筋と違って摂食による速やかな増加がなく、むしろ空腹時の糖質補給に依存した日内リズムが形成される。

1日3食において食餌蛋白質(動物性と植物性の蛋白質)を組み合わせて、例えば1日1食だけ朝にカゼイン食、昼にカゼイン食、夕にカゼイン食(その他の2食は小麦蛋白質食)をラットに与えた。その結果、肝臓グリコーゲンとヒラメ筋グリコーゲンのリズム形成において、摂食時刻の違いによって食餌蛋白質の生体への影響が異なることが判明した。1日3食において、いつ、何を食べるとよいかを明らかにすることが、時間栄養学の目的である。

次に、「なぜ夜食は健康に良くないか」を調べた。遅い時刻に摂取する夜食では、摂取した栄養素が筋肉や肝臓グリコーゲンの合成に利用されず、むしろ脂肪蓄積につながる。夜食の摂取はグリコーゲン代謝だけでなく代謝異常の原因になるので、肥満やメタボリックシンドロームの予防から“夕方”に夕食を食べることは重要である。

高血圧の予防と治療における塩分制限は、血中副腎皮質ホルモンのリズムが正常であれば、血中アルドステロンの高い朝と昼に食塩を制限し、低い夕方には比較的食塩制限をゆるやかにすることが可能である。

スポーツ・運動は体力の向上と健康の維持・増進のために欠かせない。体力づくりに重要な成長ホルモンは、朝方に強めの運動をすることで血中への分泌が減少し、逆に、夕方の運動では、成長ホルモンの分泌が増大した。このことから、運動の実施時刻によって内分泌・代謝の応答性が異なるので、体力増強に生体リズムを考慮した運動指導も不可欠である。時間栄養学は健康に楽しく生きていくための栄養学であり、特定健診、スポーツ栄養、食育をはじめ、多くの公衆栄養学や臨床栄養学の分野に大きく貢献すると考えられる。

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