基調講演

座長
日本栄養士会 専務理事
下浦 佳之 



「Withコロナと地球にやさしい健康な食事」

神奈川県立保健福祉大学 学長
中村 丁次

  COVID-19 の対策には、感染源から逃れるために3 密を避けて、手洗いやマスクの着用が有効であ る。一方で、ウイルスに対する生体防御を維持、強化させることも必要であり、私達は栄養の重要性 を主張している。例えば高齢者では、やせや血清アルブミン値の低下により、ワクチンの接種後の抗 体陽性率が低下し、感染予防率も低下する。各種ビタミン・ミネラルは、免疫機能に関係する代謝や 補酵素に関与し、これらが欠乏すると免疫細胞の機能低下を招く。免疫機能に関係する栄養素には、 エネルギー、たんぱく質、n-3 系脂肪酸、食物繊維、ビタミンA、ビタミンB 群(B1、B2、B6、B12、 葉酸、パントテン酸、ナイアシン、ビオチン)、ビタミンのC、D、E、ミネラルでは、セレン、亜 鉛、銅、鉄があり、乳酸菌も関与している。例えば、中国武漢では、COVID-19 の高齢患者182 人の 内、8 割が栄養不良状態にあり、BMI、ふくらはぎの周囲、アルブミン、ヘモグロビン、およびリン パ球数が有意に減少していた。
一方、フランスのリヨン大学病院では、肥満者ではCOVID-19 のリスクが高くなり、重症化する 者は約2倍であった。ニューヨーク市内のCOVID-19 患者でも、BMI が高値になるほど緊急入院の 頻度やICU 入室頻度が増大し、英国のICU の監査・調査機関は、ICU の感染者の内72%が肥満か 肥満傾向にあったと報告している。オックスフォード大学は、1,743 万人を分析し、死亡要因となる ハザード比は、高年齢、男性、肥満、黒人で高くなると述べている。肥満者では、内臓脂肪細胞から、 炎症性のサイトカインが大量に産生され、COVID-19 感染により炎症が拡大し、免疫機能が暴走する サイトカインストームが起きていると考えられている。
ところで、国際エネルギー機関は、COVID-19 による都市封鎖や渡航規制により、世界の温室効果 ガス排出量は前年比で8%減少し、「パリ協定」の目標値をクリアしたと報告した。皮肉にも、 COVID-19 は環境負荷を軽減させた。4 月、EU 各国の環境大臣を中心に、「グリーン・リカバリー」 が提唱された。温室効果ガスの排出を抑制しながら経済を発展させる計画で、持続可能な移動手段、 再生可能エネルギー、自然と共存できる建築や食事等が検討されている。温室効果ガス排出の内、輸 送手段からの13.5%に対して、家畜からは14~18%に達する。しかし、肉食の極端な制限は、例え 大豆や種実類の摂取量を増大しても、各種栄養素の摂取量を減少させて、低栄養問題を深刻にさせる。 特に、牛乳、乳製品の役割は重要である。健康の維持・増進、感染症予防、環境負荷の軽減、そして 社会経済発展等を総合的に考えた、新たな価値観に基づく食事の在り方が問われている。

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