メールマガジン「Nutrition News」 Vol.113
健康・栄養に関する学術情報

メタボリックシンドロームの分子基盤
 
心血管疾患が肥満、高血糖、脂質異常、高血圧の複数を持つ人に多く発症することは、以前からシンドロームXや死の四重奏などとして知られていました。現在ではそれらは統合されメタボリックシンドロームとして呼ばれています。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満を共通の要因として高血糖、脂質異常、高血圧が引き起こされる状態で、それぞれが重複した場合は命にかかわる病気を招くこともあります。
内臓脂肪型肥満がなぜこれらの症状を引き起こすのかを初めとしてメカニズムを解明するのに、多くの研究がなされてきました。第9回ダノン国際栄養学術賞(Danone International Prize for Nutrition)を受賞したHotamisligilらの研究はその中で重要な成果を挙げたものであります。今回は2007年に発表されたものですが、メタボリックシンドロームの分子基盤について詳しく解説した論文を紹介します 。
 
以下のような概要で詳しく解説してあります。
  1. メタボリックシンドローム 最上流に腹部肥満が位置し、それに続いてインスリン抵抗性が発症し、その下流で高血圧や高脂血症、耐糖能異常が誘導され、最終的に心血管病変を起こしやすい病態が成立すると考えられる。
  2. インスリン抵抗性と炎症 肥満や2型糖尿病患者では血中の炎症性サイトカインの濃度が高い。一方、抗炎症剤は糖尿病患者で血糖降下作用があり、また炎症反応の主要転写因子であるNF-κBを抑制する。
  3. アディポカインの発現変化とインスリン抵抗性 正常な脂肪組織ではアディポネクチンが分泌されインスリン感受性を維持する。肥満が起こり脂肪細胞が肥大化するとインスリン抵抗性を誘導するTNFαやIL6などの炎症性サイトカインや遊離脂肪酸が作られる。
  4. 肥満と脂肪組織の炎症 肥満した脂肪組織では炎症に関与する多くの細胞マーカーの発現が増加している。また、脂肪組織にマクロファージの浸潤が認められ、これらがアディポカイン発現に関与していると推測される。
  5. 脂肪組織の炎症とインスリン抵抗性 過食などで脂肪細胞に過剰な脂肪酸やグルコースが流入すると細胞内に小胞体ストレスが誘導され、それがJun N-terminal kinase (JNK)の活性化などを通じて炎症反応カスケードを誘導すると推察される。また、炎症に誘導されたケモカインが単球などを呼び込むとともにマクロファージへの分化を促進して持続的な慢性炎症を引き起こすと考えられる。
  6. 脂肪組織の炎症によるインスリン抵抗性とメタボリックシンドローム 肥満した脂肪組織で発現増加するアディポカインの一種PAI-1は血栓形成傾向を引き起こし心血管病変の発症に関与している。また、脂肪組織の炎症によりアディポネクチンが減少し、動脈硬化が進行する。さらに、インスリン抵抗性により起こる代償性の高インスリン血症は、腎尿細管でのナトリウム再吸収亢進を通じて交感神経活性の亢進、末梢血管抵抗の増大、血管平滑筋の増殖を引き起こし、高血圧を誘導する。このような変化はすべて心血管病変の発症へとつながる。

 参考

  
 詳細は下記論文をご参照下さい。
 
 田中義和,春日雅人
 メタボリックシンドロームの分子基盤
 日本消化器病学会雑誌 Vol. 104 (2007) No. 4 483-491
 
 本論文はJ-STAGEにてオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/51/2/51_74/_pdf
 
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