メールマガジン「Nutrition News」 Vol.140
健康・栄養に関する学術情報
腸内フローラへの介入と腸管免疫修飾による動脈硬化予防
最近の研究の進展によって、常在腸内細菌叢(腸内フローラ)と腸管免疫調節との関係や、疾患発症との関連性が解明されつつあります。特に、腸内細菌叢と肥満、および糖尿病をはじめとする代謝性疾患の発症との関連性が報告されており、疾患の予防を目的とした治療的介入も視野に入れた研究が進められています。同様に、動脈硬化研究の領域でも、腸内細菌叢の病態への関与や、腸管免疫修飾による新規予防法の取り組みなどの報告がされています。
今回は腸管と動脈硬化との関連性に注目して、今まで報告された研究成果をふまえて、今後のこの研究分野の展望について論じた総説論文を紹介します。なお、本論文の筆者らも腸管からの動脈硬化予防法の開発研究を進めており、筆頭著者の山下智也先生には第18回ダノン健康栄養フォーラム「腸内細菌と健康」(10月8日、有楽町朝日ホールにて開催)でご講演頂く予定です。
 
(内容)
「腸内フローラと代謝性疾患」
肥満と痩せの違いがある一卵性双生児においては兄弟の腸内フローラに違いがあり、腸内細菌の代謝の違いが肥満に関わる可能性が示された。腸内フローラの違いによる栄養成分の代謝や吸収の差が、疾患発生に影響するのかが注目されている。また、メタボリック症候群を発症しやすいマウスでは自然免疫システムの異常があるという報告があり、免疫システム、腸内フローラ、代謝の強い関連性が証明された。
「腸内細菌と動脈硬化」
腸内細菌が産生するフォスファチジルコリン代謝産物が心血管病を悪化させることが報告された。腸内細菌によるコリン代謝産物の増加で,マクロファージのスカベンジャー受容体が増加して、泡沫化が増加することが証明された。
「腸内フローラと腸管免疫調節」
実験動物の維持施設によって、腸管でのTh17細胞やTreg細胞などの免疫細胞数に違いがあるが、それは各施設における腸内フローラの違いと関連していた。また、動脈硬化を起こすapoEノックアウトマウスでの実験において、例えば抗生物質投与による効果の報告にばらつきがあるが、これも各施設の動物で腸内フローラに違いがあることによる可能性がある。
「腸管免疫修飾による動脈硬化予防」
筆者らは、「腸から免疫修飾により動脈硬化を予防する」という考えのもと、抗CD3 抗体や活性化ビタミンD3 を経口投与すると、マウスの腸管において未成熟型(免疫寛容性)樹状細胞とTreg の存在比率が上昇することを証明した。同時に、動脈硬化巣の面積を定量評価すると、それらの経口投与によって抑制効果があることが分かった。また、エイコサペンタエン酸(EPA)の心血管イベント抑制効果に注目して、その退縮促進効果とその機序に迫る研究を行った。血清脂質を低下させる状態でEPA を追加で投与すると、一度形成された動脈硬化巣が退縮し、腸管における樹状細胞の表現型を変化させる作用機序が明らかになった。 。

 参考

  
詳細は下記論文をご参照下さい。
 
山下 智也*、笠原 和之、佐々木直人、平田 健一
「腸内フローラへの介入と腸管免疫修飾による動脈硬化予防」
腸内細菌学雑誌 28 : 1-5,2014

本論文はJ-STAGEにてオンライン公開されており無料で閲覧出来ます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/28/1/28_1/_pdf 
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