メールマガジン「Nutrition News」 Vol.131
2013年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
妊娠後期低栄養が胎児の膵β細胞量に及ぼす影響に関する検討
-低出生体重児における2型糖尿病発症メカニズムの探索-

神戸大学大学院医学研究科 糖尿病内分泌内科学 

木村 真希 先生
  近年、妊娠時の体重増加不十分例や、女性の喫煙率増加などにより低出生体重児の割合が増加しています。低出生体重児は”catch-up growth”という出生後の成長の加速が認められ、出生後の環境によっては低体重で出生した児が逆にoverweightとなり成人期における生活習慣病を発症しやすくなることが考えられます。なかでも低出生体重児は2型糖尿病を発症しやすい傾向が知られています。これまでに胎生期低栄養もしくは低タンパク食にさらされた低出生体重モデル動物では、生後耐糖能異常が認められることの他に、出生時の膵β細胞量が減少することが報告されています。また、2型糖尿病の発症において、インスリン抵抗性と並んで膵β細胞分泌不全の重要性が注目されていますが、インスリン分泌の障害とともに、膵β細胞量も2型糖尿病において減少していることは、多くの報告より広く知られています。
 

要旨

 我々は、膵β細胞特異的にインスリンレセプターシグナルのIR-IRS-PI3K-Akt経路を遮断した膵β細胞特異的PDK1ノックアウトマウスが膵β細胞量の著明な減少および糖尿病発症をきたすことを示し、膵β細胞量調節においてインスリンシグナル伝達が重要であることを証明してきた。しかしながら胎生期や出生直後の膵β細胞量にインスリンシグナルがどのように関与しているかは定かではない。我々は低出生体重モデルマウスの膵β細胞においてインスリンシ グナルがそのメカニズムに関与している可能性に関して検討した。
  子宮内低栄養による臓器形成期の飢餓ストレスが膵β細胞量に及ぼす影響およびその調節メカニズムを解明することを目的とし、低出生体重モデルマウスを作製し、膵β細胞における影響をコントロール群(CG)と食事制限群(RG)との間で比較した。RG群はCG群に比べて有意に出生時体重が減少していたが、出生後7日目前後でCG群の体重と同等となるcatch-up growthを認めた。出生時膵β細胞量はRG群で約70%まで減少していた。4週齢から与えた高脂肪食負荷により膵β細胞量は、8週齢でRG群がCG群を有意に上回ったが、24週齢において再び減少する傾向を認めた。次にインスリンシグナルを50%減量させた膵β細胞特異的PDK1遺伝子ヘテロ欠損マウス(βPDK1+/-マウス)を用いて低出生体重モデルマウスの作製・解析を行った。βPDK1+/-マウスの膵β細胞量はRG群においてCG群の約60%まで減少しており、野生型マウスを用いたRG群の膵β細胞量よりさらに減少していた。また、生後6週齢においてもβPDK1+/-マウスのRG群の膵β細胞量は依然として減少していた。
   妊娠後期飢餓ストレスによる低出生体重モデルマウスでは、出生時膵β細胞量が減少しており、その後の膵β細胞量の増殖および維持が障害されていた。膵β細胞におけるインスリンシグナルが飢餓ストレス下における膵β細胞量維持に関与している可能性が示唆された。

 

 

 

 

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