メールマガジン「Nutrition News」 Vol.120
第16回ダノン健康栄養フォーラムより
日本人の健康長寿は乳製品で延ばせるか?
武庫川女子大学国際健康開発研究所
所長 家森幸男 先生
 南米エクアドルにあるビルカバンバは、年中野菜やくだものが豊かにとれる村で、長寿の村として有名でした。「ケシージョ」と呼ばれるチーズが重要なタンパク源であり、主食は「ユッカ」という芋とトウモロコシでした。この村に、アメリカ人がどんどん移住してきました。1986年~2000年のたった14年の間に、ビルカバンバの食生活はすっかり変わりました。主食はパンになりました。都市化により牛が飼えなくなったため、チーズは遠くから運んでこなければならず、塩の入ったものに変わりました。肥満者の割合は増え、コレステロール値が非常に高くなり、心筋梗塞は3倍にも増加しました。心筋梗塞による死亡率が高いと、平均寿命は短くなると言われています。
 一方、先進国の中で心筋梗塞による死亡率が最も低いのが日本です。米食を中心に、魚や大豆、海藻などをよく食べる日本の食事は、タウリンやマグネシウムなどの栄養素を多く摂ることができます。様々な研究で、これらの栄養素を多く摂っているほど、血圧やコレステロール値が低いという結果が得られています。つまり、これらの食生活が心筋梗塞による死亡を減らし、日本人の長寿につながっていると考えられます。しかし、なぜこの2つの栄養素がこれほど人間の健康に影響するのでしょうか。
 38億年前、生命は海の中で1つの細胞として生まれ、マグネシウムの多い海の水を細胞内に取り込みました。それが多細胞の生物になり、哺乳類の先祖となって地上に上がってきました。しかし、地上には恐竜がはびこっていたため、哺乳類の先祖は木の上に住みました。そこで食べていたのは、マグネシウムの多い木の実です。
 6200万年前、地球に隕石が当たり、恐竜が滅び、哺乳類の先祖は地上に降りてきました。二足歩行をするようになり、狩りもするようになりました。最も捕りやすいのは貝類です。貝にはマグネシウムが多く含まれます。また、魚介類にはタウリンが豊富に含まれています。 人類は240万年前に誕生したわけですが、このようにマグネシウムやタウリンの多い食事をずっと続けてきたというわけです。
 
日本食の欠点を補う乳製品
 
 米、魚、大豆、海藻などを食べる日本食は、世界の長寿食になり得ると考えています。しかし、日本食には二大欠点があるのです。1つは「塩分の過剰」、もう1つは「カルシウム不足」です。この二大欠点を補うのが、乳製品です。乳製品には、カリウムやマグネシウム、カルシウムが多く含まれています。乳製品を取り入れることで、カリウムやマグネシウムが塩分の過剰を打ち消し、同時にカルシウム不足を補うことができます。日本食の短所を、乳製品が一挙に良くしてくれることが期待できるわけです。
 乳製品が健康寿命の延伸に寄与することは、他にも様々な研究から分かってきています。

①牛乳・乳製品はスローカロリー
今、世界中で肥満が大問題となっています。清涼飲料水やお菓子など糖分の多い食品は「ファストカロリー」と呼ばれ、血糖値の急な変動や上昇を招き、肥満や高血圧、糖尿病の原因になります。 一方、ミルクは「スローカロリー」であり、血糖値もインスリンも穏やかに上昇します。私たちの実験でも、ご飯だけを摂った時に比べて、ご飯とヨーグルトを一緒に摂った時の方が、血糖値の上がり方も、インスリンの上がり方も少ないことが分かりました。乳製品はファストカロリーをスローカロリーにすることで、肥満をはじめとしたメタボリックシンドロームのリスクを防ぐ可能性があるということです。

②認知症と乳製品  
2013年に、九州大学の久山町研究で素晴らしいデータが出ました。これは約1,000人を15年間追跡し、食生活と認知症との関係について調べた大変重要なデータです。これによると、大豆、野菜、海藻、乳製品の摂取が多い人ほど認知症になりにくいということです。しかも、それは脳血管性の認知症だけでなく、アルツハイマー型の認知症、全認知症が少ないという見事なデータです。和食プラス乳製品という食事が高齢者のQOLにも大きく影響していることが考えられます。

③ヨーグルトと免疫力
ヨーグルトを摂取した群では、摂取していない群にくらべて、インフルエンザワクチンを打ったときの抗体価が上がりやすい(免疫力がついている)ということが研究によって分かりました。海藻に含まれるネバネバ物質のフコイダンも、同様にワクチンの抗体価が上がりやすいという結果が得られています。ヨーグルトは西の長寿食、海藻は東の長寿食です。東西の長寿食をうまく取り入れると、免疫力を高めることができる可能性があるということです。
 
健康寿命を延伸する「まごわやさしいよ」  
 
 今、日本人の平均寿命は男女平均で約83歳、健康寿命は約72歳です。つまり、10~11年間は健康ではない状態であり、中でも特に問題となるのが「寝たきり」です。寝たきりの大きな原因は、脳卒中と骨粗鬆症による骨折です。また、寝たきりの人は免疫機能の低下により感染症にかかりやすくなります。これらに拮抗する栄養素は、大豆、魚、野菜、海藻、そしてヨーグルト(乳製品)に多く含まれているのです。健康な食事について、よく「まごわやさしい」と言われます。これは「まめ」「ごま」「わかめ(海藻)」「野菜」「さかな」「しいたけ(きのこ)」「いも」の頭文字をとったものです。このような典型的な和食にプラスしたいのが「ヨーグルト」なのです。日本人にとって和食は素晴らしい味方です。その和食に乳製品をプラスするだけで健康長寿は可能であるというのが、私たちの結論です。ユネスコ無形文化遺産にも登録された和食をフルに活用し、その欠点を補いやすい乳製品をうまく取り入れて、1日1食から始めていただきたいと思います。私は「一日一膳」と言っています。「善」ではなく「膳」です。「膳」という字は「月(にくづき=からだ)」に「善(よい)」と書きます。1日1度だけでも体に良い食事を考えて食べることで、日本人なら確実に健康寿命を延ばせると、私は自信を持っています。
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