メールマガジン「Nutrition News」 Vol.154
2015年度ダノン学術研究助成金受贈者による研究報告
宿主細胞外マトリックスを介したプロバイオティクスとヒト腸管との相互作用
京都大学大学院農学研究科 

橋本 渉 先生
 多糖は、微生物から植物、動物にいたるまで広く存在し、細胞形態維持、エネルギーの貯蔵、および生物間相互作用による生態系の構築などに重要な機能を果たしています。ヘテロ多糖であるグリコサミノグリカン(GAG)は、細胞同士の接着や組織の骨格形成および細胞の分化と増殖など、動物の細胞外マトリックスとして種々の生理機能に関わる多糖です。ウロン酸[グルクロン酸(GlcA)またはイズロン酸(IdoA)]とアミノ糖[グルコサミン(GlcN)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、またはN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)]がGAGの主要な構成糖であり、ウロン酸とアミノ糖からなる二糖が基本単位となります。  ある種の細菌は、宿主細胞と相互作用(共生や感染)する際、GAGを定着や分解するための標的とします。例えば、膣内の乳酸桿菌は、膣内上皮のグリコーゲンを分解することによりエネルギーを獲得し、乳酸の産生により膣内の酸性度を高め、病原性細菌の侵入を防御することが知られています。本研究では、腸内細菌(主にプロバイオティクスとしての乳酸桿菌)を対象に、GAGの分解と代謝について、その分子機構を解析しました。
 

要旨

 本研究では、腸内細菌(主にプロバイオティクスとしての乳酸桿菌)を対象に、GAGの分解と代謝に関わる酵素群とそれらの遺伝子構成を、分子生物学とゲノム生物学の観点から解析しました。本研究者らが連鎖球菌に同定したGAGの断片化・輸送・分解・代謝に関わる遺伝子クラスターを、新たに乳酸桿菌(Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus caseiなど)のゲノムに見出しました。それらの乳酸桿菌を、GAGを主要な構成成分として含む培地に生育させたところ、GAGの分解を示すハローの形成が認められました。また、遺伝子クラスターにコードされる二つの酵素(KduIとKduD)が、GAGの分解で生じる不飽和ウロン酸の代謝に関わることが分かりました。本研究により、乳酸桿菌がGAGを分解すること、ならびにKduIとKduDがGAGの代謝に関わることを初めて明らかにすることができました。以上のことから、乳酸桿菌が、細胞外マトリックスを構成するGAGを介して、宿主細胞と相互作用する可能性が示されました。

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