シンポジウム4

14arai座長 
東京農業大学総合研究所 客員教授

荒井 綜一先生


14hosoi4.「運動器と栄養」

独立行政法人国立長寿医療研究センター
部長
細井 孝之先生

 

 骨、関節、そして筋肉からなる運動器が安定した機能を発揮することは日常生活の基盤となる。一方、これらの機能は加齢の影響を受け、「病的」レベルにも陥ることも多く、それらの予防と治療は高齢化が進む現代社会での大きな課題である。運動器の不安定性がもたらされた状態はロコモティブシンドロームとも呼ばれ、転倒リスクの上昇を介して、骨折リスクを上昇させる。一方、骨粗鬆症は椎体骨折、前腕骨遠位端骨折、大腿骨近位部骨折などの骨折の原因となる全身疾患である。このうち椎体骨折は脊柱変形をもたらし、このために引き起こされる脊柱の不安定性や重心の移動は、転倒リスクの上昇を介して、さらなる骨折の危険性を増大させる。今回は運動器のなかでも骨に注目し、骨粗鬆症の予防と治療の関点から栄養ケアについて考えてみたい。

 骨組織は骨吸収と骨形成の両方が常に進行しており、活発な代謝臓器である。これは骨が身体を支持・保護するという物理的な機能のほかにカルシウム代謝における主要臓器としても機能している。このため骨粗鬆症とは骨の脆弱性が亢進し、骨折を起こしやすくなった状態である。加齢にともなう骨量の減少は多数の要因によって規定され、それらは遺伝的素因と生活習慣に関連するものとにわけることができる。生活習慣のなかで運動と栄養の因子は代表的なものであり、骨粗鬆症の予防のみならず、薬物療法における基礎治療としても重要である。また、ビタミンD不足は転倒の危険因子としても注目されており、今後ロコモティブシンドロームの予防という観点からも知見が充実することが望まれる。

 骨粗鬆症の予防と治療において十分なカルシウムとビタミンD摂取の適正化は最も重要である。加齢に伴うカルシウム摂取量や腸管からの吸収低下、そして体内のビタミンD量の低下は、男女共通の加齢にともなう骨量減少の機序として考えられる。体内におけるビタミンDは、食物からの摂取と紫外線による皮膚での産生に由来するが、両者とも加齢の影響をうけて低下する。皮膚での産生のみでは必要量をまかなうことはできないと考えられ、食物からの適切な 摂取が欠かせない。また、ビタミンKは元来、正常な血液凝固のために必要な44ビタミンとして発見されたが、近年さまざまなビタミンK依存性蛋白質が血液 凝固以外の生体機能において機能をはたしていることが明らかにされ、骨代謝関連としてはオステオカルシンやマトリックスグラ蛋白が知られている。我々の研究を含めて、ビタミンK不足が骨粗鬆症性骨折の発症と関連することを示す報告は国内外から出ている。また、ビタミンKは核内受容体を介する作用も有していることが示されており、複数の機序によって骨強度を保つビタミンとして注目されている。

 骨粗鬆症の予防と治療と栄養との関連を考える時、個々の栄養素について考える時に、摂取する栄養全体の量とバランスについて考えておくことは前提条件となる。成長期から高齢期をとおして「低栄養」は骨脆弱性の危険因子となる。小児期の低栄養が骨格の成長や骨量の増加を妨げ、さらに思春期発来を遅らせることを介して骨の成熟も遅らせる。また、若年者とくに若い女性の低栄養の原因としては神経性食思不振も忘れてはならない。

 高齢者はさまざまな原因で低栄養状態に陥り、そのために骨量減少や転倒のリスクが増大することが報告されている。低栄養の原因としては個々の栄養素の特異的な欠乏、急性・慢性の基礎疾患の存在に加えて、加齢に伴う複合的な要因が考えられる。75歳以上の後期高齢者において発症頻度が増加する大腿骨近部骨折の予防においては転倒のリスクを軽減させる上で栄養状態を改善することも考慮すべきであろう。

 

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